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小説『キラースイーパー2』

 キラースイーパー二話目です。キリングキラーで書いていた話をこちらの設定に合うよう書き直しました。
 キャラ設定は『遊火清掃社』をご覧ください。


 例の殺人鬼との一件の後、遊火清掃社にやってきた鷹本は入社を認められた。

 それから一週間程は表の仕事、清掃員としての仕事をさせられた。

 この日、鷹本は入社して初めて裏の仕事をすることになる。



「どもっす」

 遊火清掃社のドアを開け、鷹本は軽く挨拶をした。

「よう、鷹本!」

 デスクについていた四人の社員が顔を上げるが、真っ先に声を上げたのは赤坂利仁だった。

 黒髪に中肉中背と一見平凡な彼は、スパイのような役回りをしているらしい。情報収集に必要なコミュニケーション能力は高く、普段から明るさとノリの良さを発揮している。同い年のせいもあってか鷹本とはすぐに仲良くなった。

「はよ」

 おはようという四文字すら略し、無愛想に呟いたのは皆川無幻だ。

 金髪をセミロングにした少女はいつも男のような口調で話し、自分のことも『俺』と言う。目付きの悪さと髪の色から、鷹本はほんの少しだけ彼女に親近感を抱いていた。

「今日も元気そうだな」

 三十路らしい落ち着いた声の主は渡辺貴文。

 基本的に無幻と組んで殺人鬼との戦闘に出ていく彼にはどこか影がある。肩までの茶色の髪と無精髭、そしてサングラスが妙に似合っていた。

「やあやあ、おはよう。もうこの仕事には慣れたかな?」

 鷹本の隣のデスクで文庫本を読んでいた縁日は、相変わらず人を喰ったような口調で話す。

「まあ大分慣れたよ。つっても、まだ表の仕事だけだけどな」

 鷹本は椅子に座り、縁日を見つめた。

 この一週間、縁日と組んで様々な場所を清掃したが、彼女の口から出るのは軽口や冗談ばかりだ。

「あ、そうだ、鷹本」

 向かい合うデスクの赤坂が身を乗り出す。

「何だよ?」

「今日辺り、あっちの仕事が入ると思うぜ。やっと情報集まったからさ」

「へえ……」

 『あっちの仕事』とは勿論殺人鬼と戦うことを言っているのだろう。

 期待とほんの少しの不安が鷹本の中で渦巻く。

 ――とにかく、今回も俺は勝つ。負けられねえ……。

 そして自分の強さを確かめるのだ。

 ガチャリとドアが開いて入ってきたのは社長の遊火、そして秘書の鈴代和斗だった。

 和斗は銀色の長い髪で右目を隠した女だ。モデルのように細く美人で、細身のスーツがよく似合っている。

「全員揃っているな」

 遊火の言葉に、ツナギを着た五人は頷いた。

「今日は裏の仕事の方だ。情報が集まったのでな」

「これを」

 和斗が五人に書類を配る。

 それにはクリップで写真が留めてあった。

 ――ん、この子って……。

 ウェーブした黒い髪をショートツインにした気の強そうな少女。

 書類に書かれた名前を確認した鷹本は目を丸くした。

「笹野雷夢って、すげえ人気のあるアイドルじゃねえか!」

 思わず大声を上げてしまった鷹本を咎めるように、和斗は一つ咳払いをした。

「ええ、そうです。笹野雷夢、18歳。現在アイドルとして活躍している彼女は、この一年で五人殺しています」

 そして和斗は淡々と続ける。

「改造スタンガンで感電死させる手口で男性を五人、か」

 渡辺は書類を読みながら顎を触った。

「よく警察にばれねえな」

「彼女のマネージャー、塚田圭途がなかなか曲者でしてね。念入りに証拠を消し、彼女のアリバイをでっち上げ、一件はホームレスに金銭を渡して代わりに出頭させているんですよ」

「俺、そういう女嫌いだ。自分一人じゃ何にもできないくせにさ」

 無幻はそう言って口を尖らせる。

「結構可愛いと思ってたんだけどなあ……」

「アイドルってのは所詮偶像だよ」

 縁日はショックを受けている鷹本を笑った。

「そういうわけで、恐らく逮捕は無理だろう。しかしこれ以上被害者を出さないようにしたい」

 遊火の言葉に、全員が頷いた。

「今回は逃水と鷹本に頼む」

「はい、分かりました」

 笑顔で立ち上がる縁日。

「あ、はい!」

 鷹本はワンテンポ遅れて返事をした。

 不安が、少し大きくなる。

 ――女、しかも子供と本気でやれるのか、俺は……。



 その夜、二人は指示通り雷夢の自宅であるマンションの清掃に来ていた。

 縁日のマンションもなかなか高級に思えたが、ここはそれを越えている。掃除などしなくても廊下はピカピカで顔が映りそうだ。さすが人気アイドルと言ってところか。

 ――こんな所に住んでても、18歳の女の子だぞ……。

 鷹本はモップで床を磨きながら溜め息をついた。

 それに気付いた縁日はくすくすと笑う。

「君は、可愛いね」

「は? 何言ってんだ、あんた」

「女の子とは戦えないなんて、純情で可愛いよ」

「男が可愛いなんて言われて喜ぶと思ってんのかよ」

「思ってないから言ってる」

 縁日にはからかわれてばかりだ。

「君は殺人鬼がどういうものか、分かってないね」

「どういうものかって、言ってみりゃ犯罪者だろ?」

「間違ってはいないけどさ」

 縁日は「うーん」と考える仕草をした。

「殺人鬼ってのは殺すことに躊躇いがない。人間を同族と思ってないんだよ」

「同族と、思ってない?」

「そう、虫を殺すような感覚で人間を殺す。そうなったらもう、人間じゃあない」

 一息つき、念を押すように言う。

「鬼だ」

 珍しく、ふざけた口調ではない。

「殺人鬼ってのは文字通り人を殺す鬼。男だろうが女だろうが、老人だろうが子供だろうが気にしちゃいけないよ」

 ――そう言われてもなあ……。

 鷹本はもう一度溜め息をついた。

 姿形は人間だ。鬼と思えと言うのは難しい。

「まあ、頭には入れておくんだね。殺人鬼を人と思って戦ってたら、いつか負けるよ」

「……」

 負けたくは、ない。

 その時、廊下の突き当たりのドアが開いた。

 中年の男がドアを開け、少女を外へ促している。

 少女は幾分地味な格好をしているが、纏う雰囲気とでもいうものが普通の人間とは違った。カリスマ性というものなのだろう。

「行こうか」

「ああ……」

 こちらに向かってくる塚田と雷夢の前に、二人は立ち塞がった。

「なあに、マスコミ? ねえ塚田、マスコミにはガセのネタ掴ませたって言ってたじゃない」

 テレビで聞いたのと同じ、愛らしい声。

「君たちは?」

 塚田が眼鏡の奥から細い目で鷹本と縁日を見つめる。

「鬼退治に来た桃太郎ってとこかな。今日は誰を殺すの?」

 縁日の言葉を聞いた塚田は眉間に皺を寄せた。

「どこで得た情報だ?」

「さあね。心当たりは?」

「話すなら場所を変えないか? ここだと人目につく」

「人目につくとまずいのはこっちも同じでね。どこにする?」

「ねえ、あたし屋上に行きたーい。いつもあそこで殺してるもの」

 塚田は溜め息をついた。

「後始末する私の身にもなってくれ。また二人分の偽装をしないといけない」

「屋上か。エレベーターの中で一撃ってことにならないか心配なんだけど」

「大丈夫よ、あたしは屋上でしか殺さないわ。あそこって見晴らしが良いし、監視カメラにも細工してるから安心なのよ」

「よく喋るんだな」

 呆れてしまった鷹本に雷夢は笑う。

「だって、あなたたちはどうせ死体になるじゃない。あたし、黙ってるのは嫌いなの」

「そうかよ」

 警戒しつつ四人でエレベーターに乗り込んだが、さすがは高級マンションと言うべきか、一分もかからずに屋上へと着いた。

「気に入った男がいたらいつもここに連れてくるのよ」

 雷夢はエレベーターを出ると、気持ち良さそうに外の風を受ける。

「塚田は手を出さないでよ。この男も気に入っちゃったから」

「ああ、終わるまで見ておく」

「随分余裕じゃねえか」

 鷹本はモップを刀のように構えた。

「あたし、これでも結構強いのよ?」

 雷夢は臆することなく鷹本を見つめる。

「ここってステージの上と似てるの。夜景がファンの持ってるライトみたいで。アイドルはステージの上では無敵なの」

 その足がとんっと地面を蹴る。

 いつの間にかスタンガンを手にしていた雷夢は、鷹本に飛び掛かった。

 鷹本はスタンガンをなんとか横に避ける。

「速い……」

 速さだけの相手は鷹本も何度か見てきた。

 しかし雷夢は今までの相手とは違う。それはやはり、殺すことに対する躊躇いの無さなのだろう。

「まるで、楽しんでるみたいだね」

 縁日は塚田の隣で呟いた。

「そうだ、あの子にとっては刺激が全てだからな。刺激があるから輝くんだ、雷夢は」

 鷹本は防戦一方に回っていた。

 スタンガンを避けていたが、給水塔に逃げ場を塞がれる。

「そろそろ死んでね!」

「お前の動きはもう見切ったんだよ!」

 スタンガンが体に当たるギリギリのところで、鷹本が雷夢の腕を掴んだ。

「確かに速いが、力では俺の勝ちだからな!」

 もう片方の手でモップを振りかぶるが、それは雷夢に当たる前に止まった。

「くそ……」

 ――だって、女だぞ? しかもまだガキじゃねえか……。

「馬鹿だな、鷹本君は」

 縁日が眉をしかめると、塚田は笑った。

「ああ、彼は馬鹿だ。殺人鬼に温情が通じるとでも思っているのか」

 鷹本はギリ、と奥歯を噛み締めた。

 いくら人間と思うなと言われても、目の前にいるのは少女だ。牙を剥き出しにすることはできない。

「あはは、そろそろさよならよ。お兄さん!」

 雷夢は鷹本の腕を振り払い、スタンガンを突き出す。

 その時、鷹本は初めて彼女の目を直視した。

 ――ああ、そうか……。

 鷹本は体勢を立て直すとモップでスタンガンを弾き飛ばし、雷夢の額に思い切り頭突きをした。

「つっ!」

 そしてふらついた雷夢の側頭部目がけてモップを振り抜いた。

 ガツンと音がして、雷夢の軽い体が横に吹っ飛んだ。



 雷夢は平凡な少女だった。

 特技と言えるほどのものはなく、いつも人ごみに紛れていた。

 それでも夢はあった。アイドルになるという夢が。

 しかし現実は残酷で、オーディションの不採用通知が溜まっていった。

 男に襲われたその日も、オーディションに向かおうとしていた。

 叢に連れ込まれた彼女は、スタンガンで男を撃退した。

 変質者が出ると聞き、護身用に買った普通のスタンガン。

 その電圧で、男は死んだ。

 おそらく持病があったのだろう。心臓麻痺だった。

 雷夢はそんな男を放置し、オーディションに向かった。遅れるわけにはいかなかったのだ。

 何故か気分が高揚し、自信があった。

 そしてその日、彼女は初めてオーディションに合格した。

 雷夢は気付いた。あの時感じた刺激が自分を輝かせたのだと。

 人を殺めた時に感じた恐怖、優越感、興奮……、そんな全ての感覚が刺激となる。

 デビューしてしばらくの間、鳴かず飛ばずの生活を送っていた彼女はマネージャーの塚田にそのことを打ち明けた。

「じゃあ、殺そう」

 塚田はそう言った。

「殺すなら気に入った男にしようか、その方がもっと刺激があるはずだ」

 その言葉に雷夢は安堵した。

 きっとこれでまた、輝ける。

 雷夢は街で一目惚れした男を連れ込み、改造スタンガンを使って殺した。

 案の定、雷夢の人気は上がった。

 もっと刺激が欲しい。

 次は屋上で夜景を見ながら殺した。

 その時の高揚感は言い知れぬものだった。

 そうやって、彼女は今の地位に登りつめたのだ。



 鷹本が雷夢を見下ろす。

「あ……」

 今の雷夢は捕食者に怯える被食者だ。

「雷夢!」

 駆け寄った塚田に、雷夢はしがみ付いた。

「あたし、怖いの……」

「刺激だとかスリルだとかいうものは強者だけが得られる快楽。被食者には恐怖にしかならないよ」

 縁日はそう言い捨てると鷹本の肩を叩いた。

「何で本気を出せたの?」

「目を見たら、あんたの言ってたことが分かった」

「目?」

「人間がする目じゃ、なかったからな」

 そう言ってエレベーターに向かう鷹本の背中に、縁日は呟く。

「君のあの目も、人間のものじゃないと思うんだけど」



 それから一ヶ月程が経っただろうか。遊火探偵事務所はいつもと変わらない。

「最近あの子、テレビで見ねえな」

 鷹本はふと口にした。

「雷夢ちゃんのことか?」

 頷いた鷹本に、赤坂は「ほら」と週刊誌を渡した。

「人気急落、オーラを失ったアイドル?」

 その表紙には雷夢の写真と共にそう書いてあった。

「そ、カリスマ性が無くなったんだってさ。元々歌もダンスも人並みだし、その内完全に消えるだろうな」

「それがその女にとっての罰なんだろ」

 無幻は当たり前だと言いたげだった。

「あの子も、あのマネージャーに会わなかったら殺人鬼にはならなかったかもしれないね」

 縁日の言う通りだろう。

「偶像、か……」

 鷹本が外に目を向けると、広告塔が見えた。

 最近話題のアイドルが微笑んでいた。
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テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2013/11/05(火) 22:37:50|
  2. 没小説
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  4. | コメント:0
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