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小説『キラースイーパー1』

 新しく始めたシリーズ、キラースイーパー一話目です。
 殺人鬼と戦う話で、以前書いたアベルの獣とキリングキラーと新しい要素を足して3で割った感じです。
 キャラ設定は『遊火清掃社』というくくりでアップします。


 心が折れた人間は牙の折れた獣と同じだ。

「す、すみません。許してください」

 先程まで大きな顔をしていたチンピラが今は土下座をしている。

 その姿を見ながら鷹本征太は溜め息をついた。

 ――またやっちまった……。

 コンビニでのバイトを初めて一ヶ月目、深夜に来店し難癖を付けてきたチンピラを殴り、屈服させた。

「やり過ぎだ! お前はクビだからな!」

 店長に怒鳴られ、鷹本は肩を落とした。

 鷹本は様々なバイトを転々として過ごしていた。

 職を変える原因はいつも暴力沙汰だ。

 絡まれると――いや、「弱いくせに」という言葉を聞くとつい手が出てしまう。

 今回のチンピラも「弱そうなくせにガン飛ばしてんじゃねえ」と言ったのだ。

 鷹本はそれなりに筋肉の付いた体はしているが、一つにまとめた長い金髪が軟弱に見えるのかもしれない。

 ――髪、切るかな。でも目付きが悪いのはどうしようもねえよな。

 鷹本は荷物を手にコンビニを出ながら、空いた手で自分の髪を触った。

 金色なのは地毛だから仕方ないが、伸ばしているのは気紛れによるものだ。

 しかし目付きの悪さは髪以上にどうしようもない。

 いい加減続く仕事を見付けなくては、と思っても高校を出てからの七年間、定職にはありつけていない。

 強くありたい、弱く見られたくない、そんな気持ちが心の中で渦を巻く。

 強くなければ生きていけない。牙の折れた獣になるぐらいなら死んだ方がましだ。

 ――親父みたいには、なりたくねえ。

 鷹本の父親はろくでもない男だった。

 酒を飲んでは妻や息子である鷹本に暴力を振るった。

 そんな家庭を支えるために必死で働いた母は、鷹本が高校に入った頃に体調を崩しこの世を去った。

 それから父親の暴力は鷹本一人に向かうようになった。

 しかし、その頃には鷹本も強くなっていた。

 折れずに堪えていた心も、痣だらけの体も……。

 ある日、鷹本は殴り返した。何度も殴り、蹴った。

 その時の父親は惨めだった。

 泣いて許しを乞い、這って逃げようとした。

 それを見た時、鷹本の中にあった怒りや憎しみは急速に冷めていった。

 自分はこのようになりたくない、そんな恐怖に変わっていった。

 逃げ出した父親がどうなったかは知らないし、興味もない。

 鷹本は心が折れることへの恐怖を胸に宿しながら生きてきたのだ。

 弱い者は心を折られ、牙の折れた獣として惨めに生きるしかない。

 それだけは嫌だった。

「畜生、嫌なことを思い出しちまった」

 そう吐き捨て、鷹本は夜空を見つめた。

 満月が鷹本を見下ろしている。

 ふと寒気がした。

 背後からの気配に、鷹本は振り返る。

「なあ、あんた暇?」

 街灯に照らされていたのはフードを目深に被った少年だった。

 彼の手には金属バットが握られている。

「何か用か?」

「用って程じゃ、ないけどさ!」

 振られた金属バットを鷹本は間一髪で避けた。

 ――何だ、こいつ……。

 鷹本は今までに様々な相手をねじ伏せてきた。凶器を使う者と対峙したこともある。

 しかしそういう者たちは凶器を持つことによって生まれる余裕、そして相手を殺してしまうのではないかという不安により自滅していった。

 この少年からはどちらも感じない。

 油断も委縮もせず、これ程躊躇いなく凶器を使う者は初めてだった。

「何だ、お前は!」

 鷹本は怒鳴りながら拳を突き出した。

 少年はそれを避けると、口元にニヤリと笑みを浮かべた。

「殺人鬼ってやつかな」

 振りかぶられた金属バット。

 その衝撃を側頭部に受け、鷹本の意識は闇に沈んでいった。



 頭の痛みと共に、意識が覚醒する。

「ここは……」

 鷹本は体を起こし、周りを見回した。

 なかなか高級そうなマンションの一室に思える。シンプルな家具はセンスが良く、テーブルの上には難解そうな本が無造作に置かれている。

 そんな部屋のソファに寝かされていたようだ。

「あ、起きた?」

 ドアを開けて入ってきたのは三十歳前後の背の高い女だった。

 黒髪をショートカットにした垂れ目の女は、どこか人を喰ったような雰囲気を纏っていた。

「あんたは?」

「逃水縁日。私が追ってた殺人鬼に君がやられたもんでね、とりあえず助けておいたよ。頭の調子はどう? ちゃんと働く? 鷹本君」

 どこかからかうような口調で言うと、変わった名前の女は屈み込み鷹本の頭に触れた。

 豊満な乳房がワイシャツからちらちらと見えていて刺激が強い。細身のズボンに包まれた下半身も肉付きが良く、目の毒だ。

「殺人鬼ってのは、あの金属バットの奴か……?」

 そう尋ねて立ち上がろうとした鷹本は眩暈を覚え、ソファに座り込んだ。

「無理はしちゃいけない。大したことはないみたいだけど、すぐに動くもんじゃないよ」

「俺は、あいつに負けたのかよ……」

 ――力でねじ伏せられ、弱者に堕ちたのか。

 もしあの時意識があれば、自分はあの男に命乞いをしていたのだろうか。

 そう考えると、冷や汗が出る。

 ――親父みたいな醜態を、晒してたのか……。

「殺人鬼っていうのは強いよ。殺意故の強さ、かな。殺すことに対する恐怖も躊躇いもないんだから最大の力を出せる」

 だからあの男は躊躇いなく凶器を仕えたのだ。

 縁日はパンパンと手を叩いた。

「君の牙が一度の敗北で折れるようなものなら、私の見込み違いだから出て行ってくれ。でももしリベンジする気があるのなら、チャンスをあげよう」

「チャンス?」

 縁日は床に置いていた鞄から何かを取り出す。

 それは清掃員が着ているような青いツナギだった。

「サイズは合うと思うんだけどなあ。私たちの仕事着なんだけど」

「清掃員、なのか?」

「遊火清掃社。小さな清掃会社だけど、裏で殺人鬼退治をしていてね」

「へえ……」

「一応勧誘しておくよ」

 胡散臭い話だった。

 しかし、鷹本はそのツナギを受け取った。

「どこにいけば、もう一回あいつとやり合える?」

 自分はまだ生きている。生きている限り、戦わねばならない。

「弱者に甘んじてるぐらいなら、死んだ方がましだ」

 それならば、もう一度挑むしかないだろう。

「いい目だね」

「まだ俺の牙は、折れちゃいねえ」



 早朝のビル、その四階にあるネットカフェの前に鷹本と縁日はいた。

 二人とも青いツナギを着ていた。

「彼の名は関谷和彦、十八歳。三人撲殺してる殺人鬼だよ。毎晩このネカフェで寝泊まりしてるから、そろそろバイトに行くんじゃないかな」

 縁日の言葉通り、すぐに自動ドアが開いた。

 ボストンバックを肩にかけた関谷の腕を、鷹本が掴む。

「おい」

 関谷は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに笑った。

「ああ、死にぞこないの兄ちゃんか」

「リベンジしにきた」

「いいよ、殺し損ねてイライラしてたし」

「話は決まりだね。じゃあこっちに」

 縁日が二人を連れてきたのは人気のない男子トイレだ。

「清掃中にしておけば誰も来ないからさ」

「なるほどな」

「じゃあ、やる?」

 関谷はボストンバッグから金属バットを取り出した。

「あんたは素手? 何使ってもいいんだよ?」

 鷹本は立てかけてあったモップを手に取った。

「これで充分だ」

「あっそ。じゃあ今度こそ、くたばってくれよ!」

 笑みと共に鷹本の脳天目がけて金属バットが振り下ろされる。

 鷹本はそれをモップで受け、薙ぎ払う。

 それによって関谷に生まれた隙を見逃さず、鷹本は鳩尾に蹴りを入れた。

「ぐっ!」

 体を折った関谷だが、とんっと後ろに下がり、モップによる攻撃を避ける。

「あんた、強くなってね?」

「覚悟を決めたからな。もう、死ぬことは恐れねえ」

「じゃあ楽に死ねるじゃん!」

 一気に距離を詰めにかかる関谷。

 その時の鷹本の目に、見ていた縁日は恐ろしいものを感じた。

 純粋なまでの強さへの執着を感じさせる、獣の目だ。

 詰められた距離、振り下ろされたバット。

 それを鷹本は左手で受け止めた。

 そして間髪入れず、右手で握ったモップを関谷の側頭部に叩き付けた。

 関谷の体は横に吹っ飛び、壁にぶつかると倒れ込んだ。



 関谷は気の弱い子供だった。

 だからだろう、よくいじめられていた。

 小学生の時には靴を隠され、中学生の時には弁当に虫を入れられ、高校生の時にはリンチにあった。

 強者が弱者を痛めつける。それは水が高所から低所に流れるように当たり前のことだった。

 ――自分がもし、強ければ……。

 そんなことを考えながらも、関谷は弱者という立場から抜け出せずにいた。

 その日もクラスメートたちから殴られ、蹴られていた。

 その時逃げ込んだ体育倉庫にあった金属バット。

 体育倉庫の戸がこじ開けられようとした時、関谷は思った。

 ――今なら、抜け出せる。

 関谷は入ってきたクラスメートの頭を目がけてバットを振り下ろした。

 血飛沫を浴び、悲鳴を聞き、関谷は強者の特権に酔いしれた。

 他人を傷付けるという、強者の特権に。



 獣の瞳がそんな関谷を見下ろす。

 今の二人は捕食者と被食者そのものだった。

 圧倒的な一撃で関谷は戦意を喪失した。殺人鬼としての牙は折れ、被食者に成り下がったのだ。

「まだやるか?」

「いや……」

 関谷の掠れた声を聞き、鷹本は息をついた。

 そして縁日の方を向く。

「お見事。後は警察に任せよう。通報しておくよ」

「ああ」

 清掃中の札が外された。



 その日の昼、ガラス張りのビルの五階にある遊火清掃社には経営者である遊火賢一の他に四人の社員がいた。

 遊火とその秘書以外は皆青いツナギを着ている。

 モダンな印象のオフィス。そのドアが開いた。

「どーも。とりあえず関谷は片付きましたよ」

 入ってきたのは縁日だ。

 へらへらと笑いながら、縁日は遊火のデスクに歩み寄った。

「君は、一般人を巻き込んだな」

「覚悟は決めたそうですから、もう一般人じゃあないでしょう」

「そういう問題じゃない」

「彼のこと、前からお話ししてたじゃないですか。いい機会だったと思ってくださいよ」

「何が目的なんだ」

「おいしく育ってからいただこうと思って」

 縁日の声音からはどこまで本気なのか測り知れない。

「強い者の心を折るの、好きなんですよ」

 遊火は溜め息をついた。

「君は有能だが、歪んでいる」

「ええ、まあ」

 縁日はにっこりと笑った。



 自宅のアパートに戻ってから、鷹本はツナギを着たまま仰向けに寝転んだ。

 関谷と戦うことで、自分の強さを確かめられた気がする。

 その時感じた高揚感と充足感……。

 手には、帰り際に渡された遊火清掃会社の住所が書かれたメモがある。

「行ってみっか。勧誘してるって言ってたし、一回きりってこたあねえだろ」

 鷹本は起き上り、部屋を後にした。

 彼はまだ知らない。何故自己紹介もしていない自分の名前を縁日が知っていたのか……。
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テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2013/10/25(金) 20:04:36|
  2. 没小説
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