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小説『第1話・ミノタウロスの物語』

書いてみたかった小説をノリと勢いで。
童顔巨乳女子高生とオペラ座の怪人の学園ラブコメバトルモノです。
キャラの設定画やシリーズ名がまだできてないんですが、新シリーズに追加する予定です!



『第1話・ミノタウロスの物語』

「如月は書かないのか?」
 長い黒髪を綺麗に切り揃えた少女、鈴原鈴香は隣で彼女が書いた原稿に目を通している桜庭如月に尋ねた。
「学園祭の時期になったら書くよ」
 如月は黒いショートカットの髪に指を絡ませ、童顔にチャーミングな笑みを浮かべた。
 その言葉を何度聞いたことか、と鈴香は溜め息をついた。
「10月までまだ半年もあるじゃないか」
「そもそも私が好きなのは読む方だからねー」
 Kカップという圧巻のバストがグレーのブレザーの下で揺れ、机を挟んで正面に座っていたひょろりと背の高い少年、内藤圭一は長い前髪の奥にある目を泳がせる。
「え、えっと、僕も読みたいです。桜庭さんが去年の学園祭の部誌に書いた小説、好きだし……」
 おずおずとした言葉に、その隣でノートにシャープペンシルを走らせていた金髪に赤いフレームの眼鏡を掛けた秋野弘斗がケラケラと笑った。
「如月は文章技法が凄いもんな。なんつーか、技術がさ」
「そう、そうなんです!」
 内藤は同意してから慌てて首を振った。
「いや、あの! 文章だけじゃなくて内容も面白いですよ!」
 如月は焦っている彼を見て苦笑し、原稿用紙を鈴香に返す。
「面白かった、鈴原さんの小説好きだよ」
「嬉しいが……」
 晴常高校の文芸部は深刻な部員不足であった。
 部員が五人を切れば部から研究会へと格下げになる。それが規則だ。
 そのため鈴香に頼み込まれ、形だけでもと部員として所属しているのが如月だ。
「な、俺の新作読まねえ?」
 秋野がノートを鈴香に突き出す。
「念のために訊くが、タイトルは?」
「魔法少女ミルキーピーチ〜淫虐の触手地獄」
「読むか!」
 スパンと小気味のいい音を立て、鈴香は秋野の頭を叩いた。
「じゃあ私が読むー」
「駄目ですよ、桜庭さん!」
「なんだよー、エロだって立派な文学だぜ?」
 秋野はニヤニヤと笑い、内藤の肩にポンと手を置く。
「そうそう、文学だよ。ーーあ、そろそろ行くね」
 如月は立ち上がり、ひらひらと手を振った。
「図書室か?」
「うん、じゃあねー」
 部室棟の一番奥にある文芸部部室を出て行く如月を見送ると、鈴香は盛大に溜め息をついた。
「私はあいつが書いた小説を読みたい」
「僕もです。文体が凄く綺麗で……」
「そうじゃない、私はあいつのことが知りたいんだ」
「え?」
 首を傾げる内藤の肩に、秋野は肘を置いた。
「成績優秀、童顔巨乳、告白してきた男子を何人袖にしたかも分からねえ、そんなあいつが何であんなに退屈そうなのか、だろ?」
「退屈そう、ですか?」
 笑顔を絶やさない如月の顔を思い描き、内藤は逆の方向に首を傾げた。

「ふんふんふふーん」
 元々貿易に使われていたらしい洒落た白い校舎。
 如月は鼻歌を歌いながら海側にある南校舎を通り抜け、図書室のある北校舎にスキップで向かう。
 生徒たちの憩いの場である中庭で茶髪に学ランの後ろ姿に目を留め、如月は「あ」と声を上げた。
「太刀風君だー」
 彼の名を呼び背中に勢いよく抱き付くと、太刀風勝は「うおっ!」と驚き周りの生徒たちの注目を集めた。
「たーちかーぜくーん」
「バカか! 離れろ!」
 目付きの悪い少年は怒鳴り、如月を振り解く。
「あいさつのハグだよ」
「んなあいさつしてんじゃねえよ! バカだろお前!」
 へらへらと笑う如月と怒り心頭に発するといった様子の太刀風を見て、生徒たちはこそこそと会話する。
「あれ胸当たっただろ、いいなー」
「いつもあんな感じだけど、桜庭さんって太刀風のこと好きなのか?」
「太刀風って不良じゃん、なんで?」
「確か太刀風も文芸部でしょ、だからじゃない?」
「うるせえぞ!」
 太刀風が一喝すると、彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「怒りっぽいねー、君は」
「怒らせてる当人が言うか?」
「そうだ、太刀風君は部室行かないの?」
「行かねえよ。籍だけ置いときゃいいんだろ」
「まあ、そうだけどさあ」
「つか三年しかいないんじゃどっちみち終わってんじゃねえか」
「これから新入生が入るかもしれないよ」
「そうかよ」
 太刀風は頭を搔き、息をついた。
「お前はいつも楽しそうだな」
「そう見える?」
 一瞬、ほんの一瞬だけ空寒いものを感じ、太刀風の表情が固まる。
「なら良かった、じゃあねー」
 再びスキップで去って行く如月。
「なんか、寒気したぞおい……」
 如月は笑顔を崩すこともなかったのに、だ。

 如月が図書室に入ると、図書委員の女子生徒が顔を上げる。
「あ、桜庭センパイなら大丈夫ですね」
「ん、なにが?」
「センパイ遅くまでいるでしょ? 鍵閉めるのお願いしていいですか、今日デートなんで」
 彼女はペロリと舌を出すと、返事も待たずに如月に鍵を渡し、カウンターをひょいと乗り越えた。
「いいけど、貸し出しの手続きとかは?」
「どうせ誰も来ませんよー」
「それもそっか」
 如月は肩を竦め、誰もいない図書室を見回した。
 ーー宝の持ち腐れ。
 晴常高校の図書室は規模が大きく、蔵書の数は下手な図書館より多い。
 だが、利用する生徒は少なかった。
「デート、か。恋でもすれば何か変わるのかな」
 如月はそう独り言ち、重厚な本棚の間を歩いて行く。
 告白をされても断ってきたのは、本を読む時間が減るからだ。
 読書以外の時が、退屈だった。
 如月は、他人に興味が持てない。
 不幸な生い立ちを背負っているわけでも、他人に裏切られたことがあるわけでもない。
 そもそも、人間が嫌いだというわけではない。
 本当に興味がなく、相手に対して何の感情も抱けないのだ。
 故の退屈。
 子供の頃からそうだった。
 それでも如月は楽しそうなふりをする。
 それは母に心配をかけないためであった。
 興味はなくとも、良識とでもいうものは持ち合わせているのだ。
 この退屈な日々の救い、それが本ーーいや、物語である。
 如月は幼少時代母から与えられた本を読み、初めて退屈でない時間を知った。
 有名なピアニストである母はコンサートのため世界中を飛び回っており、自分が不在である間少しでも如月の淋しさが紛れるようにと様々な本を買い与えてくれた。
 ーー物語のキャラクターには興味を持てるんだから不思議だよなあ。
 如月はそう思う。
 彼らの不幸に涙を流し、幸福に喜ぶ、それができた。
 だから如月は本を読む。
「あれ」
 如月は見慣れた書架の前で立ち止まった。
 全て読み終えたはずの本棚に並ぶ背表紙。
 その中に異質なものが混ざっていた。
 ーータイトルがない?
 背表紙に題名が書かれていなければラベルも貼られていない、真っ白なハードカバー。
「こんなの、昨日は無かったのに……」
 如月は不思議に思いつつ、その本に指をかけた。
 瞬間、ドクンと心臓が高鳴る。
 触れた指が熱い。白熱電球に触ったような感覚だ。
 慌てて手を離そうとした時、本が光を放った。
「なに……っ」
 眩しさに目を閉じる如月。
 目蓋越しでもなお、光の強さを感じる。
 ようやく目を開けた時、白い本は無くなっていた。
「白昼夢でも見てたのかな……」
 本があった隙間も消えていた。
 書架には見知った本がぴっちりと詰まっている。
 ふと背後に気配を感じ、如月は振り向いた。
「は?」
 間抜けな声が口をつく。
 そこにいたのは牛頭人身の大柄な男だった。
 ーーいやいやいやいや。
 誰かがよくある牛のマスクを被り、自分を驚かせようとしているのだと考えた如月は「あー、びっくりした」と笑った。
「手が込んでるなあ。すごくリアルだね、そのマスク。でも裸に腰布って勇気あり過ぎ……」
 ドスンッと音がした。
 大きな拳が床にめり込んでいる。
「うおおおおおっ!」
 獣の咆哮が、如月の鼓膜をビリビリと震わせた。
 その怪物は後ろにあった本棚を掴むと、驚くべき怪力で如月に投げ付けた。
「わわっ!」
 如月は横に身を投げ出して本棚の直撃こそ避けたものの、宙に放り出された本が彼女の体を打った。
「いた……、夢じゃ、ないんだ」
 呑気な言葉を口にしながら、如月は怪物を見上げた。
 牛頭人身の怪物ならギリシャ神話で読んだ。
 ミノタウロスだ。
 ミノス王が欲望からポセイドンとの約束を違えたために、妃であるパーシパエから生まれた呪われた子。
 王が自らの手に負えず迷宮に閉じ込めて生贄を与え続けたが、最後はテセウスに打ち倒された怪物。
「まさか本で読んだキャラクターに殺されるなんてね。まあいいか、退屈だし」
 自嘲気に呟き、如月は目を閉じた。
 ミノタウロスは大きな手を如月の首に伸ばして持ち上げ、ギリギリと絞め始めた。
 ーー死ぬ?このまま?
 気付けば、酸素を求めて開いたはずの口から言葉が溢れていた。
「死にたく、ないな……」
「それが貴女の願いならば、叶えましょう」
 低く美しい声と共に、図書室だった空間が変化する。
「ファントム・ドゥ・オペラ」
 広がったのはビロードの幕、荘厳な造りの舞台、誰もいない客席ーーオペラ座だ。
 舞台に、ミノタウロスと如月は立っていた。
 如月は咄嗟にボックス席に目をやる。
 黒いタキシードにマントを付けた男が見えた。
 彼は仮面を被っている。
 ーーそれなら、きっと。
 如月は力を緩めることのないミノタウロスに向かって、語りかけた。
「私は、君の幸福を願っていたよ……」
 心からの言葉だった。
 物語を読み進めながら、哀れな怪物の呪いが解け、幸せになることを望んでいた。
「ねえ、アステリオス」
 ミノス王の牛ではない、彼の本当の名を口にする。
「アステリ、オス……」
 アステリオスの手が緩み、彼女の体が舞台の床に落ちる。
 如月はそのまま転がり、彼と距離を取った。
 目の前に豪華な造りのシャンデリアが落下する。
 それは見た目通りの重さでアステリオスを圧し潰した。
「はあ、あ……」
 如月は思い切り息を吸い、吐き出す。
 仮面の男はいつの間にか如月のすぐ隣に立っていた。
 長い金色の髪を束ねた男は「お見事です」と手を叩く。
「貴女がミノタウロスから離れなければ、私はシャンデリアを落とせなかった。よく分かりましたね、私がしようとしたことを」
「オペラ座の怪人なら、そうかなって……」
「あ、あ……」
 シャンデリアの下から呻き声がして、如月はハッとそちらを向いた。
 搾り出すような声と共に、伸ばされた手。
「アステリオスと呼ばれて、嬉しかった……」
 その手が光と共に消え去った瞬間、景色が図書室に戻った。
「ええと、あれ?」
 図書室の同じ場所、それなのに本棚は倒れておらず本も散乱していない。
「どういうこと?」
「お答えしましょう」
 オペラ座の怪人はそう言い、恭しくお辞儀をした。
「リベルがフォルリーである貴女に封印されれば、彼らが破壊した物は元に戻ります」
「リベルとフォルリー……、ラテン語で本と本棚?」
「ええ」
「彼らが、本?」
「物語ーー本となるキャラクターたちです」
 オペラの怪人は如月の頬を優しく撫でた。
「先程の彼は一つの物語、本となり貴女という本棚に並びました。白い本の思惑通りね」
「私の中に、アステリオスが……」
「リベルたちは封印されまいと、君の命を狙いに来るでしょう」
 如月は眉間に皺を寄せた。
「それならどうして、君は私を助けてくれたの? 君もリベルでしょう」
「貴女が私のために泣いてくれたから」
 如月は思い出す。
 母が初めて買ってくれた本、児童向けに編集された『オペラ座の怪人』を。
 小学生になったばかりの自分はそれを読み、哀れな怪人のために涙を流した。
 物心が付いて初めて流した涙だった。
「ありがとう、エリック」
 怪人の名を呼ぶと、如月は背伸びをして彼の仮面を外した。
 爛れた顔の右側、そこに彼女は口付けた。
 エリックは驚いたように一歩退がる。
「貴女は……」
「私がクリスティーヌなら、仮面を取った時点でこうしてた」
 エリックは跪き、少女の手にキスをした。
「命に変えても、貴女を守り通すと約束しましょう」

 翌日、全校集会で臨時の音楽教師が紹介された。
 金色の髪で顔の右半分を隠した彼の名はエリック・桜庭ーー如月の遠い親戚らしい。
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テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2019/01/16(水) 22:08:01|
  2. 創作『リベルリドル』
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