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小説『第一話・金属バットの殺人鬼』

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 マーダースイーツを少し設定変更して、正式に一話を書いてみました。
 内容はいつものパターンといえばそうなんですが、『強さを渇望し弱さを恐れる主人公』を書くと殺人鬼に一度負けてからの覚醒が書きたくなるのです。
 今回は沢村を千夜と同い年に変更この二人のダブル主人公という形で話を進めていきたいと思います。先日書いた混沌の話なども後々絡ませていきますので。
 以前アップした沢村と千夜の18禁小説も少し修正して再掲します。
 設定画もきちんと色を塗ったら設定カテゴリに再アップします!


『第一話・金属バットの殺人鬼』

 心が折れた人間は、牙の折れた獣と同じだ。
 それが喧嘩屋である沢村誠助の持論だった。
 何を以て心を折るか、その問いに彼はこう答える。
 ――圧倒的な暴力。
 金色の獣のような男は、今日も暗い路地で戦う。

 沢村の長い脚が、自分より倍は幅のある男を蹴り飛ばす。
「ぐあっ!」
 潰れた声を上げながら倒れ込んだ男の顔を、沢村は容赦なく蹴り上げた。
「ゆ、許してくれ……」
 男の吐血混じりの命乞いを聞き、彼は舌打ちをした。
「もう折れたのかよ、つまんねえ」
 この男も路地裏に連れ込んだ時は威勢よくナイフを取り出し見せ付けてきたというのに、わずか数分でこの有様だ。
「好きにしろ、目障りなんだよ」
 沢村が吐き捨てるようにそう言うと、男は這う這うの体で逃げ出した。
「クソ、情けねえな」
「お、もう終わったんだ」
 角からひょっこりと顔を出した茶髪の少年は鈴鳴登。マネージャーのような役割を果たす彼に、沢村は毒づく。
「お前が取ってくる依頼は全部面白くねえ」
「まあそう言うなって、食ってくためなんだからさ」
 鈴鳴は明るくそう言うと、沢村の背中をバシバシと叩いた。
 高校時代からの悪友である鈴鳴に、沢村は文句を言いつつも小さく笑った。
「さっきのやつ、あれでもう依頼人に付きまとったりしねえかな」
「ストーカーだったな。大丈夫だ、あいつの心は完全に折ったぜ」
「お前がそう言うなら安心だ」
 心を折られた人間は実に無力で、何もかもに怯えるようになる。
 沢村がそれを知ったのは高校生の時であった。
「そういや」
 鈴鳴がポンと手を打つ。
「ん?」
「最近、この辺で通り魔が流行ってるらしいぜ」
「通り魔?」
「三人殺されてるってヤバくね? しかも金属バットで滅多打ち。ニュースでやってたんだけどさ」
「ニュースなんて見てねえよ」
 沢村は肩を竦めた。
「情報は必要だろ」
「そういうのはお前に任せる。つか、そんなやつ返り討ちにしてやんよ」
「お前ならそう言うと思ったけどさ。じゃあ、俺のアパートこっちだから。また依頼入ったら連絡するな」
「おー」
 丁字路で鈴鳴と別れ、沢村はオフィス街を抜けた暗い夜道を歩く。
 ――強く、もっと強く強く強く……。
 何者にも負けない強さを、その証明を、沢村は必要としていた。
「あんな相手じゃ、なんの意味もねえんだよ……」
「なあ、あんた暇?」
 背後からの声に、沢村は慌てて振り返る。
 街灯に照らされているのは、フードを目深に被った少年だった。
 その手に握られているのは、金属バットだ。
 ――気配を、感じなかった?
 沢村は拳を握り締め、体を緊張させる。
「なんか用か?」
「用ってほどじゃ、ないけどさ!」
 側頭部を狙って振り抜かれたバットを、沢村は間一髪で回避した。
 ――こいつが、通り魔か……?
 体勢を立て直し、沢村は少年を見つめる。
 この少年は、今まで沢村が相手をしてきた者たちとは決定的に違っていた。
 バット、鉄パイプ、ナイフ……、そんな物を使う相手とは何度もやり合った。
 しかし彼らは凶器を持つことで油断するか、逆に委縮していた。
 その圧倒的な力で相手を『殺してしまう』ことを恐れるのだ。
 それなのに、目の前の少年は油断も委縮もしていない。全力で向かってきていた。
 そんな人間と対峙したのは、初めてのことである。
「なんなんだよ、てめえは!」
 それでも沢村は握っていた拳を突き出す。
 少年はそれを軽く避けると、口角を吊り上げた。
「殺人鬼ってやつ?」
 ふざけた声音とともに振り上げられた金属バットの衝撃を頭に受け、沢村の意識は闇に沈んだ。

 沢村の父親は、ろくでもない男だった。
 酒を飲んでは妻や息子に暴力をふるう、そんな人間だった。
 必死に働いた母は、沢村が高校に入る前に体を壊しこの世を去った。
 それから父の暴力は沢村一人に向かうようになった。
 だが、その頃には沢村も強くなっていた。
 痣だらけの細い体も、折れずに堪えていた心も。
 ある日、彼は殴られる前に父を殴った。
 何度も殴り、蹴り、踏み付けた。
 父親は泣いて許しを乞い、這って逃げようとした。
 それを見た時、沢村の中にあった怒りや憎しみといったものは急速に冷めていった。
 残ったのは、強さへの渇望と弱さへの恐怖だ。
 彼の中にあるのは、それだけだった。

 目を開けると、沢村は見たこともない洒落たリビングルーム――いや、ラウンジというべき広さの部屋のソファで寝ていた。
 軋む体を無理矢理動かし、上半身を起こす。
「意識戻ったんだな、良かった!」
 横を見ると、鈴鳴が心底ほっとした様子で胸を撫で下ろしていた。
「いきなり連絡きたからびっくりしたぜ。お前のスマホにあったのが俺の連絡先だけだったかららしいけどさ。まあとにかく無事で……」
「俺は、負けたのか?」
 鈴鳴の言葉を遮り、沢村は掠れた声で呟く。
「沢村」
「俺は、負けたんだな」
 あの殺人鬼に力で捻じ伏せられ、弱者に堕ちた。
 意識があれば、自分は少年に命乞いをしていたのだろうか。這ってでも逃げようとしたのだろうか。
 ――親父みたいに……。
「ああ、目が覚めたか」
 ドアが開く音と共に、男の声が耳に届いた。
 よれよれのワイシャツ姿の男が部屋に入ってくる。続いてスーツ姿の優男に、ワンピースを着た少女。
「誰だ?」
「殺人鬼捕獲チーム、マーダラーズハイ……。と言っても通じないだろうな」
 ワイシャツ姿の男はそう言うと、ローテーブルを挟んで沢村と向かい合うようソファに腰を下ろした。
 優男と少女はその後ろのダイニングテーブルとセットの椅子に座る。
「ああ、全く分からねえ」
 少しだが冷静になった沢村は頷いた。
「どう説明すればいいか……。俺はこういうのが苦手でな。千夜が説明した方が早い」
 男は渋い顔に困ったような表情を浮かべ、少女に目をやる。
「私がですか?」
 美少女と呼んで遜色ない少女は、黒いセミロングの髪を揺らした。
 ――乳でけえ。目も大きいし、髪の毛柔らかそうだな……。
 そんな余裕がある自分に驚きながらも、沢村は千夜に見惚れていた。
「それだけ君が話し上手ということさ。説明してあげたらいいじゃないか」
 優男は人の好さそうな笑みを浮かべ、千夜を促す。
「分かりましたよ。ええと、沢村君? 名前はそっちの……」
「鈴鳴な?」
「ああ、うん。鈴鳴くんから聞いた。だから何で俺の名前を知ってるんだ、なんて質問は受け付けない」
「お、おう……」
 クールにそう言い放った千夜に、沢村は頷いた。
「殺人鬼はとりあえずシリアルキラーとでも思ってくれればいいから」
「シリア……」
「連続殺人犯」
「じゃあ最初から連続殺人犯って言えよ」
「マーダラーズハイはそんな殺人鬼を捕獲するために警察が試験的に作ったチーム」
「無視か」
 千夜のある意味で尊大な態度に、沢村は軽い苛立ちを覚える。
「つまり、連続殺人犯を捕まえるためのチームに俺は……、助けられたのか?」
「私が見付けて、水上さんが助けた」
 水上と呼ばれた優男はにっこりと微笑む。
「あのまま関谷を捕えても良かったんだが、君のことを放っておけずに助けたら逃げられてしまったよ。いやあ、迂闊だった。残念だ」
「沢村、抑えろよ。恩人だから、命の恩人だから!」
「ああ……」
 沢村が拳を握り締めるのを見て、鈴鳴は必死に制止する。
「状況は理解してもらえたか? 俺は森川浩継、このチームのリーダーだ。それで、海戸千夜と水上圭……」
「水上、圭?」
「なんだよ、知り合いか?」
 フルネームを聞いた途端、鈴鳴が青ざめた。
「どこかで見たと思ったんだよ……。げ、現代の、切り裂きジャック!」
 指を差された水上は「ほう」と声を上げる。
「覚えているとはね。今まで外に出ても気付く人間はいなかったのに」
「水上さん、話題になったわりにはすぐテレビから消えましたもんね」
「人を一発屋みたいに言わないでくれよ」
「現代の切り裂きジャック?」
「ほら、去年捕まった……、あーもう、お前少しはニュース見ろって! 同じ手口で10人も殺されたやつだよ!」
「ああ、そういや」
「援助交際してる子ばっか狙われたから被害者もネットで叩かれてた……、あの事件の、犯人?」
「そうだよ。そうやってしっかり覚えていてもらえると嬉しいもんだね」
 水上は笑みを崩さず、何でもないことのように言った。
「な、何で警察のチームに当の殺人鬼がいるんっすか、森川さん!」
「そいつはまあ、協力者で……」
「殺人鬼は強いから」
 千夜が口にした言葉に、沢村はハッとする。
 ――おうだ、あの野郎は、今まで会った誰よりも強かった。
「殺人鬼は、正に鬼だよ。人を殺す鬼。――殺すことに躊躇いがないから、力をセーブする必要がないもの」
「殺すことに躊躇いがないから強い?」
 沢村は思いつめあように呟く。
「誰だって相手を殺さないよう無意識に力を抑えているものでしょ。君だって」
「俺は……」
 力を抑えているつもりはない。それでも、他人を殺そうと思ったことはなかった。
「俺は、どこに行けばさっきの……、関谷と戦える?」
「おい、沢村!」
「俺は、負けたままじゃ駄目なんだよ! このままじゃあ、一番大事なもんが折れちまう」
 敗北は、沢村にとって魂とでも言うべきものの死を意味していた。
 彼は止めようとする鈴鳴を押しのけ、立ち上がった。
 森川は一つ溜め息をつき、沢村を見つめた。
「マーダラーズハイは試験的なチームだから人材不足だ」
「だから……」
「覚悟があるのなら、これを入団試験だとでも思ってくれ」
「覚悟?」
 沢村の目に、ギラギラとした光が宿る。
「命を、賭けてやるよ」

 夜の明けかけた薄暗い街に、人通りはほとんどなかった。
 沢村たちが先程『仕事』をしていたオフィス街に一台の車が止まる。
 後部座席から沢村が、助手席から千夜が降り立つと、運転席の森川が顔を出す。
「詳しいことは千夜に聞いてくれればいい。ここで待っている」
「分かった」
 それだけ返し、沢村は早々に歩き出した千夜の後を追った。
 何も言わず前を歩く少女に、沢村は「なあ」と声をかけた。
「何で、お前なんだ」
 千夜は振り返り、微かに口角を上げる。
「私がいないと、関谷を見付けられないからだよ」
「はあ?」
「私は、殺意を感知してしまう体質なんだ」
「分かんねえ」
「だよね」
 頭を掻く沢村に、千夜は首を傾ける。
「超能力、共感覚、読心術……。何なのか、私にも分からない。でも、半径50メートルぐらいなら、殺意を抱いている人間の存在に気付くことができるの」
「マジなのか?」
「嘘だったら、私をマーダラーズハイに置く意味がないじゃない」
「それはまあ、うん、そうだよな」
「私が殺人鬼を見付けて水上さんが捕える。そのやり方で5人逮捕したよ」
 千夜の口ぶりは自慢しているようなものでもない。ただ、それが事実ということだろう。
「でも、お前の方にメリットはあるのかよ」
「ある」
 千夜は静かな水面のような瞳で、彼を見つめた。
「私も、殺したい人間がいるから」
「は……?」
「殺すことが正しいのか否か、答えを知りたい。そのためには、たくさんの殺人鬼を見て、理解することが必要でしょ?」
「答えも何も……、人を殺すのは、間違いじゃねえか」
「法律上はね。それでも私は『私にとって』正しい答えを見付けたい。自分が納得できるなら、たとえ法に背くことであってもあの男を殺す」
 どこか空寒いものを感じた沢村は、
「何で、俺にそんなことを話せるんだ」
 と、尋ねた。
 すると千夜は眉間に皺を寄せる。
「君が訊いたんでしょ? 私にメリットがあるかって。自分が発した言葉も覚えてないの?」
「ああ? お前、ちょくちょく言い方に棘があるよな。遠回しに言ったり直球だったり、はっきりしねえしよお」
 臆したのはたった一瞬、沢村はそう言い返し千夜の目を見つめ返す。
「君の理解力が足りないんでしょ。私は小学校の先生じゃない」
「可愛くねえなー……」
 最初に見惚れてしまった自分を殴ってやりたいと思う沢村だが、千夜はそんな彼の腕を掴んで押し退ける。
「おい!」
「近くにいる」
「関谷がか」
「うん」
 ネットカフェの看板を出しているビルから出てきたのは、パーカー姿の少年。
 慌てて振り返った沢村は、確かにその少年が関谷であると確信を持った。
「関谷!」
「ん? ああ」
 彼は沢村に気付くと、嘲るように笑った。
「誰かと思えば死に損ないか」
「リベンジマッチだ」
「いいぜ。俺も殺し損ねてイライラしてたんだ。あんたを殺した後、邪魔したそっちの女も殺す」
 関谷はそう言うと、ボストンバッグから金属バットを取り出した。
「今度こそ、くたばれよ!」
 関谷は沢村の脳天目掛けてバットを振り下ろした。
 沢村がそれを左に避けると、空振りをした関谷に隙が生まれる。
 沢村はそれを見逃すことなく鳩尾を蹴り上げた。
 畳みかけるように、身体を折った関谷との距離を詰める。
 しかし関谷は横に転がることで次の攻撃から逃れた。
「げほ……っ、あんた、そんなに強かったのかよ」
「負けるわけにはいかねえんだよ、俺は。――死んでも、負けられねえ」
 譫言のようにつぶやく沢村の瞳がギラリと光った。
 その獣のような目に、関谷は一瞬怯む。
 それでも彼は踏み込み、バットを振りかぶった。
 バットを受け止めたのは、沢村の左腕。
 沢村は金属バットを思い切り振り払うと、関谷の顔面に拳を叩き込んだ。
 関谷の体が一瞬宙に浮き、地面に倒れ込む。
 一撃の拳が、彼の心をへし折った。

 関谷実は、気の弱い子だった。
 だからかもしれない、いつもいじめられた。
 小学生の時には靴を隠され、中学生の時には弁当に虫を入れられた。
 高校生になった彼を待ち受けていたのは、暴力であった。
 強者が弱者を痛め付ける。それは水が高所から低所に流れるように当たり前のことであった。
 ――自分がもし、強ければ……、
 そんなことを考えながらも、関谷が弱者の立場から逃れることは叶わなかった。
 あの日までは。
 クラスメートの暴力から逃げるために駆け込んだ体育倉庫で、金属バットが目に入った。
 体育倉庫の扉がこじ開けられる寸前、関谷は思った。
 ――今なら、抜け出せる。
 彼は扉が開いた瞬間、金属バットを振り下ろした。
 血飛沫を浴びながら、彼は強者の特権に酔いしれた。
 命を奪うという、強者の特権に。

「まだやるか?」
「いや……」
 心の折れた関谷は、再び弱者へと堕ちた。
「おい、見てたか。これで文句ねえな……、って、千夜!」
 振り向いた沢村は、地面に膝をついて胸を押さえている千夜に駆け寄った。
「どうした? まさか今ので気分悪くなったとか言わねえよな!」
「言わない、よ」
 千夜はワンピースの胸の辺りをぐしゃりと握り締め、顔を上げた。
「今……」
「今?」
「関谷の殺意の源が、流れ込んできた……」
「はあ?」
 千夜は沢村の腕にすがり付く。
「本当なんだ。彼はもう一つ死体を隠してる。一人目の被害者の……。ああもう、こんなこと、今までなかったのに」
 捲し立てる千夜に少々驚きながらも、ちらりと見やった関谷の「何故それを知っているんだ」と言いたげな表情からそれが事実であることを沢村は悟った。
「とにかく、大丈夫か?」
「私は正常だ」
「頭じゃねえ、体の方だ。すげえつらそうだぜ」
「ああ……、ああ、うん」
 千夜は取り乱した自分を恥じるように呼吸を整える。
「ごめん、少し驚いただけだから、大丈夫」
「じゃあ聞くけどよ、あいつはどうすんだ。連れて帰るのか?」
「いや、連絡すれば警察本部が確保するから。あれならもう逃げないだろうし、私たちは車に戻ろう」
「おう」
 千夜に促され、沢村は明るくなり始めた街を後にした。

「なあ、沢村。――なあって!」
「ん?」
 鈴鳴に身体を揺すられ、沢村はソファの上で目を開けた。
「俺は……」
「死んだみたいに眠ってたんだぜ、お前」
「あー、そうか」
 車に戻った後、自分は電池が切れたように眠りに落ちたのだ。
「ってか、俺も死ぬかと思ったんだよ! 現代の切り裂きジャックとずっと顔突き合わせてたんだからな!」
「大丈夫、俺は売春婦しか殺さないよ」
「ひっ!」
 ラウンジに入ってきた水上の笑顔を見て、鈴鳴は声を裏返らせる。
「おめでとう、沢村君。君は合格だってさ。鈴鳴君も家政夫として雇うと森川が言ってた」
「家政夫?」
「お前のことが心配でさ。住み込みになるから家賃も浮くし、悪くないかなーって」
「つか、住み込みなのかよ」
「ここは良い場所だよ。街からは少し離れているけど景観がいい。ほら、朝の海なんて最高だ」
 水上が手で示したのはガラス張りの広い窓から見下ろすことのできる海だ。
 澄んだブルーは確かに美しい。
「なんせ元は資産家の別荘だ。金は充分かかってる」
 水上はそう言ったあと、表情を変えた。
「千夜が、殺意の源を見たんだって?」
 冷たい表情に、鈴鳴は再び悲鳴を上げる。
 しかし、沢村は怯むこともしない。
「らしいぜ。よく分かんねえけど」
「殺人鬼が語ろうとしない動機や生い立ちが分かれば、犯罪学も進歩するだろうね。彼女の負担は計り知れないが」
 ――負担……。
 沢村はあの時の千夜の顔を思い出した。
 ――いけすかねえ奴だけど、あんな顔されたら心配になるだろうが。
「おはよう、目が覚めたか」
 ドアが開き、森川と千夜がラウンジに顔を出す。
「これから沢村と千夜に組んでもらう。水上はサポートに回ってくれ」
「了解」
 水上は仕方ないと言いたげな顔で肩を竦めた。
「それ、千夜は大丈夫なのかよ」
 思わず身を乗り出した沢村は、ローテーブルに手を突く。
「問題ないよ、むしろ手っ取り早い」
 千夜はあっさりと言い放ち、向かい合うようにソファへと腰を下ろした。
「殺意の源は、関谷の心が折れたから見えたんだと思う」
「心が折れたから?」
「君の拳が、殺人鬼の心を折ったんだよ」
「何でそう言える?」
「こういう言葉はあまり使いたくないけど――なんとなく?」
「へえ……」
「だから、これからよろしくね」
 千夜は微笑み、沢村に手を差し出した。
 ――やっぱり可愛い、かもしんねえ……。
 そんなことを思う自分に呆れながら、沢村はその白い手を握った。
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テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2018/10/08(月) 20:27:41|
  2. 創作『マーダースイーツ』
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