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小説『黒社会の混沌』

 マーダースイーツ中華街編の敵となるチャイニーズマフィア『混沌(フンドゥン)』のメインキャラの紹介を兼ねた小話です。主人公(黄虎、久賀、レイラ)サイドから書く予定だったんですが、こちらが先にできてしまった…。
 紗々や時雨をこういう形で本編に復帰させてみました。キャラ紹介は設定記事にアップします!


『黒社会の混沌』

 海辺の中華街、その中心にそびえ立つ混沌楼。
 黒髪をショートカットにした女と小柄な少年が、重い扉を開けて廊下へと足を踏み出した。
 豪奢な赤い絨毯と派手な調度はやや趣味が悪いとさえ思えるが、二人はそんなことなど気にしていない。
「だからさあ、何で君は殺しちゃうかなあ」
 絆紗々は「はー」と溜め息をついて肩を竦めた。
「うっせーな。弱過ぎんだよ、相手が」
 絆紗月は舌打ちをし、自分より背の高い女を睨み付ける。
「紗月君、私たちのやることは拷問であって殺人じゃあないの」
「拷問? 絆家当主サマがそんなこと言っていいのか? あれは『人神の儀』っつー神聖な儀式で……」
 紗月の言葉を紗々は鼻で笑い飛ばす。
「君みたいに若い子があんなクソ田舎の因習を信じてるとはね。私はただ、当主って立場を利用してるだけだ」
「だから、てめえがそれを言うんじゃねえ!」
 食って掛かる紗月の眼前に、ポケットから取り出したボールペンを突き付けた紗々は、
「悔しいかい、分家の長男坊」
 と言って壁に手を突き、女を口説くような体勢で囁く。
「あれは神を作るなんて御大層な儀式じゃない。ただ拷問で精神を破壊して一つ上の人格を作ってるだけだよ。村の連中は神が降りてきたなんて言ってるけどね。失敗作は鬼に落ちる――つまり一つ下の人格にシフトしてるんだ。理性のない、殺意と憎しみに満ちた鬼……、はたまた獣か」
 笑みを浮かべ、淀みなく語る紗々に紗月は言葉を返すことができない。
「死体はほとんど使えない。新鮮なうちにバラして臓器を売るくらいで交渉材料にもならないし。ここじゃあ確かに人ひとりの値段なんて安いもんだけどさ、君の尻拭いをするのは私だからね。加減を学べクソガキ」
「何で……」
「ん?」
「何で、てめえはここにいるんだよ!」
 紗月の瞳に伺えるのは、悲しみと怒りだ。
「それはこっちの台詞だよ。君は何のために『混沌』に来たの」
「俺は当主代理に頼まれて……っ!」
「あの人も心配性だなあ、お目付け役が必要ってことか」
 紗々は苦笑し、踵を返した。
「待てよ!」
「ボスに謝罪しに行く。馬鹿弟子の尻拭いだよ」
 振り返りもせず片手を上げた紗々に、紗月は「クソ!」と毒づいた。

 最上階でエレベーターの扉が開いた瞬間、紗々の喉元に銀色の刃――メスが当てられた。
「貴女でしたか」
 切れ長の瞳を細め、中性的な細身の女がメスを仕舞う。
「失礼、どうぞ」
 あくまで淡々と、フロア全体が一室となっている執務室に紗々を招き入れる藍澤時雨だが、そこにある嫌悪感は隠し切れていない。
「ボスには何のご用で?」
「弟子がやらかしたポカの謝罪」
「またですか」
「バラすなら早めによろしく」
 紗々は自然な動きで時雨の細い腰に腕を回し、引き寄せた。
「今度、食事でもどう?」
「この話の流れで、よく食欲が湧きますね」
「目的は食事の後の方だから」
「紗々」
 大柄な男が眉間に皺を寄せ、紗々の手を掴む。
「あれ、人留君来てたんだ?」
「すまん藍澤、こいつの言うことは気にしないでくれ」
 人留は紗々の手を掴んだまま歩き出す。
 時雨は溜め息をつき、拷問室の死体と対面すべくエレベーターに乗り込んだ。
「言われなくとも、本気になどしませんよ」
 ただ、そう呟いて。
 中華街を一望できる大きなガラス窓の前、ソファに腰掛け足を組んでいる男が眼帯で隠れていない左目で紗々と人留を見つめる。
「ボス、悪いね。また紗月君がやらかした」
「まあ、いいんじゃねえの? 代わりは腐るほどある」
「だよねえ、紗月君を使っても?」
「いや、お前の玩具……、もとい付き人の代わりじゃねえよ?」
 この一帯を牛耳る男とは思えぬほど、金鳥は気さくに振る舞う。
「はは、ボスはユーモアもあるから助かる」
「必要なら冷酷にもなるぜ」
「ああ、そういえば噂を聞いたな。藍澤さんに手を出した構成員が拷問部屋に連れていかれたとか」
 それを聞いた人留は噎せたが、紗々と金鳥は笑顔で会話を続ける。
「ボスの側近かつ主治医に手を出すなんて、なかなかの度胸なんじゃないの? 生きてりゃ大物になったかもしれない」
「生きてりゃ、な」
「あのなあ……」
 人留は溜め息をつき、口を挟んだ。
「私情を挟み過ぎだ。トップ同士の会話とは思えないんだが」
「私はクソ田舎のトップだよ。混沌のボスと並べて語られるようなもんじゃあない」
「俺はお前のことを頼りにしてるんだぜ? 絆家当主でタレント活動もこなす人気推理作家だ、名実共に揃ってる」
「黒社会の若きカリスマのお墨付き、か。嬉しい限りだ」
 紗々は柔らかく微笑むと、人留を見つめた。
「送ってくれるよね、愛しの探偵君」
「当たり前だ。お前一人で歩かせるか」
「お熱いこった」
 金鳥は恋人同士のやり取りを眺め、口角を上げた。
 そしてソファから立ち上がると、窓に指を這わせた。
「俺が、この世界を統べる」
 悪趣味なほどぎらつく街は、闇に満ちている。
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テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2018/10/01(月) 22:01:39|
  2. 創作『マーダースイーツ』
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