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18禁小説『どうか心の片隅に(第三章)』

 第一話第三章。潜入した女学園で用務員の男に襲われる千夜(本番はなし)。
 事件解決のため、白百合女学園に潜入する千夜、そして事件は解決へ。
第三章
「センパーイ!」
 月曜日の放課後のことだった。教室を出た千夜の元に、るるが駆けてくる。
「どうしたの?」
「あの後、もう少し調べてみたんです。香川先輩のこと」
「え、ほんと?」
 るるは胸を張り、
「香川先輩、中学生の時は白百合女学園に通ってたんです!」
 と、人差し指を立てた。
「白百合……、あのお嬢様学校?」
 千夜も名前は知っている。この辺りでは有名な中高一貫校だ。
「何で中学だけなんだろう」
「そこ、気になりますよね? まあ、それ以上は分からないんですけど」
 千夜は「ふむ」と唇を撫でた。
 ふと、ルカの言葉を思い出す。
 ――香川先輩がかわいそう、か……。
「先輩?」
「いや、ありがとう。すごく助かった」
「じゃあ、今度デートしてください!」
「うん、何か奢るよ」
 千夜はるるの肩を叩くと、駆け出した。
 ――犯人探しは私の意思で始めたことじゃない。でも、頑張るから……。
 憧れたという気持ちに見合うように、この事件を解決しようと思った。

「おじさん!」
 海戸探偵事務所のドアを開けると、ソファに座っている鷺沼が「よう」と手を挙げた。
「あれ、おじさんは?」
「珍しく依頼が入ったから、留守番しててくれってよ」
「鷺沼さんに頼むかなあ、普通……」
「あいつに用事があったのか?」
「いえ……、むしろ鷺沼さんの方がいいかも」
「俺の方が?」
 千夜は拳を握り締め、その言葉を口にした。
「白百合女学園の制服、手に入りませんか?」
 鷺沼はポカンと口を開けたが、すぐに問い返す。
「何で?」
「理由を言わないと、駄目ですか?」
 千夜は少し困った顔をした。
 正直に言えば海戸に伝わり、心配をかけるだろう。
 嘘ならいくつも考えてきたが、鷺沼には通用しない気がした。
 だが鷺沼は、
「いいぜ」
 と言って軽く自分の膝を叩く。
「いいんですか?」
「ああ、言いたくないことだってあんだろ。その手の店から調達しといてやるよ」
「ありがとうございます!」
「渡すとこ、海戸に見られたくないんだろ? 明日にでも学校の前まで持っていく」
「お願いします」
 千夜はぺこりと頭を下げた。
「いいっていいって」
 ――コスプレセックスでもすんだろうな。マンネリ気味なのか?
 鷺沼は千夜と海戸の関係を知っている。以前事務所に入ろうとした時、隙間から二人の行為を見てしまったのだ。
 だが、鷺沼としてはそれをどうこういう気は無かった。倫理だの道徳だのには興味などない男である。
「ま、よくあるこった、制服使うとか」
「よくあるんですか?」
 千夜は首を傾げた。
 ――取立てのために学校に忍び込むことってあるのかな?
 互いの勘違いに気付かなかったおかげで、事はスムーズに進んだ。

「よし」
 翌日、公衆トイレで鷺沼から受け取った制服に着替えた千夜。
「さすがお嬢様学校って感じだなー。可愛い制服」
 ワンピース型の白いセーラー服の胸元には百合の刺繍、袖と裾に施された青いラインも洒落ている。
 バスで三十分程の白百合女学園に向かう間、千夜は考えをまとめていた。
 ――香川さんの同級生だった子たちのいる高等部で、生徒のふりをして聞き込みをする。全生徒の顔を覚えている子なんていないだろうし、いけるはず。
「高校生なら噂が好きな年頃だよね、上手く話を引き出さなきゃ」
 ぽつりと呟き、白百合女学園前でバスを降りる。
「おー」
 キリスト教系の学園のためか中等部と高等部、二つの校舎は教会のようで、少女漫画にでも出てきそうな外観だ。
 小さな植物園まであることに驚き、千夜は入ってみようかと思ったものの、目的を優先する。
 まずは木陰のベンチに座っている二人の女子生徒に声をかけることにした。
「ねえねえ、ちょっと聞いていいかな?」
「あら、ご機嫌よう」
「ご機嫌よう。きちんと挨拶をしないと、先生に注意されてしまいますわよ」
「ああ、ご機嫌よう。転校してきたばっかりだから、まだ慣れてなくて」
 お嬢様学校と呼ばれるだけはあるなあ、と千夜は適当な嘘をついて話を進める。
「あの、香川弓子さんって知ってる 中等部までここに通ってたらしいんだけど」
「香川さん? 存じ上げませんわ。お姉様はいかがでしょう?」
「そうね、同じ学年だったから知ってはいるけど……、どうして彼女のことを?」
「この間亡くなったって聞いたから、ちょっと気になっちゃって」
 好奇心旺盛なふりをし、聞いてみせる。噂好きのこの年頃なら、この方が話しやすいはずだ。
 しかし『お姉様』は溜め息をつく。
「好奇心で亡くなった方のことを詮索するなんて、下品だわ。行きましょう」
「はい、お姉様」
 二人は千夜の考えに反し、不快感を露わにして去っていった。
「ありゃ……。まあ、それが正しい反応なんだけどね」
 千夜は肩を竦め、他の生徒を求めて高等部の校舎に足を踏み入れた。

 その後も数人に声をかけたが、皆言うことは同じようなものだった。
「下卑た話はおやめなさい」
「ごめんなさい、あまり話したくないの」
「軽蔑するわ、好奇心でそんなことを聞くなんて」
 と、いうように。
「はい、ごもっともです」
 千夜は生徒のいなくなった廊下で、窓から夕日を見つめ独り言ちた。
 ――でも、みんな本当にそう思ってるのかなあ。
 などと考えてしまうのは、自分がひねくれているからなのかもしれない、と苦笑する。
「聞き方を変えてみようか」
 例えば、幼馴染だった弓子と同じ学園に転校してきたのに、彼女は不自然に姿を消していた。そして殺害されたなんて信じられない――とでもいうように。
「うん、悪くない」
「何が悪くないのかね?」
 振り返ると、そこにいたのは太った中年男だ。
 不審者か教師か……。千夜は一瞬考えたが、堂々としている様子から後者だろうと判断する。
「先日の試験の点数です」
 千夜は適当なことを言い、微笑んだ。
 しかし男はじろじろと不躾な目で千夜を見ると、
「君、ちょっと来なさい」
 と言って、その腕を掴んだ。
「え、あの、私……」
「いいから来るんだ」
 彼の脂ぎった手の力は強く、千夜を誰もいない教室に引きずり込み、教卓に押し付ける。
「先生、何するんですか」
「先程から生徒たちが話していてね。見慣れない女子が妙なことを聞き回っている、と」
「すみません、好奇心で……」
「私は教師じゃない、用務員だ。ここの生徒ならそれぐらいは知っているはずだがねえ」
 ――しまった……。
「あの、私、この学園に憧れていて……。制服も可愛いし、校舎も素敵だし……。だから友人に制服を借りて忍び込んだんです、ごめんなさい」
 大事にならないよう、子供らしく可愛い理由を考えて言葉にする。
「そうだね、ここの制服は可愛い。君のようなおっぱいの大きな子には、よく似合っているよ……」
 男は舌なめずりをすると、千夜の胸をいやらしい手付きで撫でる。
 その行為は、千夜をパニックに追いやった。
 ――怖い……。おじさん以外に、おっぱい触られてる……。
 知らない男の手は不快感しか生まず、虫が這いずっているような感覚に陥る。
「悪い子だねえ、君は。不法侵入だよ? 警察に突き出してもいいんだ」
「ご、ごめんなさ……」
「まあ私は優しいから、こういう形で済ませてあげるけどね?」
 男の分厚い唇が、千夜のそれに吸い付く。
 彼は千夜の唇を舐め、恐怖で力の入らない千夜の口内に舌を侵入させ、犯していく。
 自らの唾液を注ぐ男の行為に、鳥肌がたった。
 だが、千夜は小さく震えているだけで、抵抗はできなかった。
 ――気持ち悪い、怖い、助けて……。
「ほら、ちゃんと唾液を飲み込むんだよ? そうじゃないと、酷いことをするからね」
 千夜は目に涙を溜めながら、男の唾液を飲んだ。
「いい子だ、言うことを聞いていたら、悪いようにはしないから……」
 男は千夜を抱き締め、肉付きの良い尻を鷲掴みにする。
 ぐにぐにと無遠慮に揉まれ、千夜の口から「ひっ!」と悲鳴が上がった。
「お尻も大きいね、安産型だ」
 男の生温かいい気が耳に当たる。
 ズボン越しに硬くなっているイチモツが、千夜の下腹部に押し付けられた。
「い、や……」
「君のその手で、触るんだ」
 男は千夜の手を取ると、自らの股間へと導いた。
 力の入らない千夜の手は、簡単にそれを握らされてしまう。
 布越しでもそれは熱く、千夜の恐怖を煽った。
 ――おじさんのおちんちんしか、触ったことないのに……。怖い、いやだ……。
「もっと強く握りなさい」
 男の力は強く、しっかりと形が分かるほどに千夜の手を押さえる。
「び、びくんって動いてる……」
「君がえっちな身体をしているからだよ。私は興奮してるんだ、君がいやらしいから」
「ちが……」
「そんなことを言っても、誘っているんだろう? その制服を着て、私を誘惑しにきたんだろう?」
「ち、ちがう……、やだ……」
 千夜の瞳から涙が溢れた時だった。
「何をしているんですか」
 ガラリと戸が開き、冷たい声がした。
 男は慌てて振り返る。
「こ、これはだね……」
「用務員さん、女子生徒の間で噂になってますよ。いやらしい目で見られるって」
 黒髪をポニーテールにした生徒が、ハキハキとした口調で続けた。
「先生を呼んできます」
「待ってくれ、これは誤解なんだ! この子が誘ってきて……」
 肩を力強く掴まれ、千夜はどうしていいのか分からず頷いてしまう。
「誘われても、良識ある大人なら神聖な学び舎でそんなことはしません」
「この子にも、後暗いことがあるんだ! お互い大事にしないということでいいだろう? な?」
 彼は媚びるようにそう言うと、教室を駆け出していった。
 千夜はぺたりとその場に座り込んだ。
「大丈夫?」
「ありがとう……。大丈夫……」
 千夜は差し出された手を掴もうとしたが、先程まで触らされていたモノのことを思い出す。
「ごめん、手を洗ってから」
「ああ、そうよね。お手洗いに行きましょう」
「うん」
 彼女に案内された手洗い場で、千夜は何度も手を洗った。
 なかなかあの感触は拭い切れなかったが、物理的な汚れは取れているのだと自らに言い聞かせピンク色のハンカチで手を拭いた。
「えっと、君は……」
 取り繕うような笑顔で、千夜は助けてくれた少女の方を向いた。
「私は貝塚理央。この学園の三年生」
「同じ学年だ。晴常高校だけど」
 今度は差し出された手を取り、握手をする。
「晴常高校か、やっぱりうちの生徒じゃなかったんだ」
 理央はクスクスと笑う。用務員の男に向けた顔が嘘のように、穏やかな表情だった。
「海戸さん、大胆なことするね。そんなにこの学園に興味あるの?」
「いや、調べたいことがあって。あの、中等部の時にこの学園に通ってた香川弓子さんのこと、知ってる?」
 理央の表情が、暗いものに変わる。何か知っているのだ。
「殺された彼女のことを、調べてるの」
「そういうのは、警察に任せることでしょ?」
「頼まれたから……」
「誰に?」
「――香川さん、自身に」
 彼女が本当に憧れの対象として自分を見ていたなら、もし生きて問題を抱えていたなら、きっと千夜に助けを求めていたはずだ。
 だから、これは嘘ではない。
「そっか……」
 理央は俯き、口元を押さえた。
 その目に光るのは、涙だ。
「あれは、現代の切り裂きジャックのしわざじゃ、ないのね……」
「うん、違う」
「そう、なんだ……」
 理央は息をつくと、拳を握り締めた。
「弓子がこの学園をやめた理由、話すわ」
「知ってるんだね?」
「当事者だから」
 理央は、言葉を紡ぐ。
「中等部の頃、私たちは恋人だった」
「恋人?」
 理央は沈みつつある夕日を窓から見つめた。まるで、過去を懐かしむように。
「女子校ではよくある話……、なんてなるわけない。私たちは関係を隠してた。放課後、誰もいない教室で愛の言葉を交わして、キスをしたわ」
 千夜は、黙って聞いていた。
「だけどね、ある日他の子に見られたの。キスしているところを。幸いっていうのかな、影になって、私のことは見えなかったみたい。次の日から、弓子だけが好奇の視線に晒された。みんな、相手は誰か聞き出そうとした……」
 ――やっぱり、嘘だったんじゃないか。
 この学園の生徒にも、好奇心はあるのだ。他人の隠れた恋愛を暴こうとする、下卑た好奇心が。
「それは、視線じゃ終わらなかった。彼女は酷いことをされて……、私はただ、怖かった。だから由美子から遠ざかって、助けることもしなかった。誰も頼れなくなった弓子は、中等部を卒業すると同時に転校していったわ」
「そうか……」
 だから弓子のは母は言っていたのだ。
 ――死んでまで迷惑をかけて……。
 彼女の醜聞は親にとって『迷惑』でしかなかった。
 そしてあの時の千夜へのキスは、憧れや恋慕の情、そんな相手に向けた一種のSOSだったのかもしれない。
「全部、分かった……」
 すっかり冷静になった頭の中で、全てが繋がった。

 生物室での授業が終わると、千夜は平静を装って立ち上がった。
 これから自分はきっと恐ろしいものを見ることになるのだろうと思いながら。
「あ、千夜」
 美由の声に振り返る。
「ん?」
「教室、戻らないの?」
 千夜はにっこりと笑った。
「先生に質問があるから、先に戻ってて」
「はーい」
 生物室から生徒たちが出て行くと、千夜は教卓で教科書などをまとめている国本に声をかけた。
「先生、あの……」
「何かね」
「先日使っていたハンカチを返してください。あれは私が香川さんに貸したものです」
 国本は一瞬固まった。
 だが、ぎこちない笑顔を浮かべ、ポケットからハンカチを取り出す。
「ああ、君のだったのか。弓子に借りていてね……」
 千夜はそれを受け取り、息をついた。
「先生が香川さんと愛し合っていたというのは、嘘ですよね」
 国本の顔が、歪む。
「何を言っているんだ、私たちは確かに愛し合っていたんだよ。その証拠に……」
「香川さんは、同性愛者だったんです」
 千夜はそのまま言葉を続けた。
「中学生の時、同性の恋人がいたそうです」
「中学時代のことだろう。高校生にもなれば、それが間違いだったと分かる」
「同性愛を間違いと切り捨てていいのか分かりませんが、彼女は私にキスをしました。それが、彼女が今も女性を愛している証拠です。愛し合っていたというのは、先生の嘘か妄想……、きゃっ!」
 国本は千夜の腕を掴んだ。そして引きずるように準備室へ押し込む。
 床に尻餅をついた千夜を見下ろす国本。
「君に見せてあげよう。私と弓子の愛の証拠を」
 準備室にはホルマリン漬けの生物標本が保管してある。
 国本はその一つを取ると、千夜に見えるよう目の高さに下げた。
 ――胎児だ……。
 彼が弓子の腹を裂いたのは、胎児を取り出すためだったのだ。
 ――やっぱり、そうだったんだ。
「この子が、私と弓子の愛の結晶だ!」
 国本は狂ったように笑う。
「彼女はこの子を堕ろすと言ったから、仕方なく殺した。そして、この子を『保存』した。――いやいや、しかし何故彼女が私を拒んだのかと思ったが、そうか、君が彼女を、唆したのか」
「唆した?」
 千夜は国本を睨み付ける。
「彼女は、助けを求めていたんです! 貴方に犯されて妊娠しても、両親には言えない。一人で抱え込んで……。それが、あのキスだったんだ」
「それこそ、妄想だ!」
「確かに、私の想像です。でも、貴方が香川さんを殺したのは、紛れもない事実ですよ」
 千夜はポケットからスマートフォンを取り出した。それは通話状態になっている。
「警察に繋がっています。確かに言いましたよね、殺したと」
「く……」
 国本は、膝から崩れ落ちた。
「私と弓子は、愛し合っていたんだ、本当に……。私に微笑みかけて、訊いたんだ。愛とは何かと。私に愛を、教えてほしかったんだ、彼女は……」
「ええ、教えてほしかったんでしょうね。自分の抱く愛が、生物学的に正しいものなのかどうか」
 パトカーのサイレンが、聞こえた。
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  1. 2017/05/13(土) 19:47:34|
  2. 没小説
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  4. | コメント:0
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