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小説『肝試しの怪』

 以前書いた『本日も晴天なり』に近い感じのシリーズ、『晴天乱流』です。
 便利屋晴天の四人が事件を解決したりする話。
 隣町の肝試しを手伝います。


 住宅街にある一軒の古びた日本家屋。

 そこには『便利屋晴天』と書かれた木製の看板がかかっている。



 ある夏の日のこと、便利屋晴天に一人の客が来ていた。

「どういう用件なんですか?」

 君沢が茶を出すと、晴海は客である老人を促した。

「はい、私は隣町で町内会長をしているのですが、毎年夏休みになると子供たち相手の肝試し大会を主催しておりまして……」

「肝試し……」

 旭雄はどこか懐かしい響きに「ほお」と感嘆の声を上げる。

「はい、ただ忙しい時期なのかなかなかご近所の方々の手も借りられませんで、集まっても私のような年寄りばかりでは子供たちを驚かせる斬新なアイディアも思い浮かばず、いつも子供たちは怖がってくれないんですよ」

「まあ最近の子供はゲームやらなんやらで慣れてますからね」

 広瀬の言葉はもっともで、町内会長は頷いた。

「そうなんですよ。しかも今年はあと一週間だというのに、年のせいかいつもの仲間も寝込んでしまってなんの準備もできていないんです。私一人でできるわけもないし……」

「それは大変ですね」

 親身になって聞いていた君沢が同情の言葉をかける。

「だから、皆さんの力をお借りして、今年こそは肝試し大会を成功させたいのです」

「いいじゃねえか」

「ああ、町内行事は盛り上がらないとな」

「まあ、依頼なら」

「頑張りましょうね」

 四人は顔を見合わせ、笑った。

「ありがとうございます!」



 町内会長に連れられてやってきたのは隣町の雑木林。

 鬱蒼と木が茂ったそこは、暗くなるとなかなか雰囲気があるだろう。

「普段はどんな驚かせ方をしてるんですか?」

 君沢の問いに町内会長は頭を掻いた。

「そうですね、普通にこんにゃくを糸で吊したり、私たちが幽霊の格好をしたり……。ちょっと古いですよね」

「やっぱ幽霊の格好にしても、マスクとかが必要かねえ」

「あ、晴海さんナイスアイディア!」

「それで追いかけるとかはどうだろう?」

 旭雄が手を打つ。

「ああ、そうだな。つかお前は和服だし血糊付けたらマスクとか無くても結構怖いんじゃね?」

「そういえば、ポスター作りなんかもまだですよね? ここに来るまでに一枚も見なかったし」

「はい。私も今年は年のせいか調子が悪くて……」

「じゃあ俺がポスター描きますよ」

「俺も手伝うよ、君沢」

「お願いします、広瀬先輩」

「じゃあ、一週間でしっかり準備しようじゃねえか!」

 リーダーである晴海の言葉に皆頷いた。



 慌ただしく一週間が経ち、肝試し当日がやってきた。

「晴海さん、用意できましたか?」

 待機所代わりに作られたテントの中で準備をしている晴海に声をかけた君沢は、「わっ!」と声を上げた。

「何ですか、それ!」

 振り返った晴海の顔は半分が崩れ、髑髏になっている。

「結構こええだろ。最近のマスクは精巧にできてんな」

「俺はこれでいいのか」

 その隣で正座をしている旭雄の顔には血糊がべっとりと付いていた。

「なんか迫力ありますよ……」

「じゃあ俺と君沢は人魂花火で驚かせますから」

「こんにゃくよりこっちの方が怖いんですよねー」

 そんな中だと、オーソドックスな幽霊の格好をした町内会長も恐ろしく見えた。

「では私は最後に出るということで」

「はい。町内の肝試し大会だ。最後ぐらいはオーソドックスな幽霊がいねえとな」

「その方が情緒もある」

「さ、もうすぐ開始時間だ。ガキどもをびびらせてやんぞ!」



 二人組になった子供たちが、雑木林の中を懐中電灯の灯りだけを頼りに歩いて行く。

「どうせまた子供だましだろー」

「あはは、今時こんにゃくじゃびびらないよなー」

 余裕といった様子の子供たちの目に、いつもとは違うものが飛び込んできた。

 ゆらゆらと揺れる青白い光だ。

「あ、あれ、人魂?」

「で、でも、どうせ花火かなんかだろ……」

 花火を手に持って隠れている君沢は頬を掻いた。

 ――最近の子って鋭い……。

 しかしここで晴海の出番だ。

「俺の顔を返せ……」

 人魂の向こうから現れた晴海は俯き、地を這うような声を出す。

「え?」

「俺の顔を返せー!」

 パッと顔を上げ叫ぶと、彼は立派なモンスターとして子供たちの目に映った。

「うわー!」

「待てー!」

 走り出した子供たちを、晴海は追い付かない程度の速さで追いかける。

「な、なんだよあれー!」

「今年、マジでやばいよ!」

「お前たちの顔をよこせー……!」

 声が遠くなっていく。子供たちはモンスターから何とか逃げ延びた。

 晴海は打ち合わせ通りの距離を走ると持ち場に戻ったのだ。

「も、もう追いかけてこないよな……」

「う、うん……、ここまで来たら……」

 胸を撫で下ろす二人の前に、次の恐怖が襲い掛かる。

 再び人魂が現れ、和服姿の男を照らした。

「憎い……。俺を斬った奴が憎い……」

「な、何だよ、あいつ……」

「末代まで祟ってやる……」

 血糊を付けた旭雄はゆっくりと二人を睨み付けた。

「ギャー!」

 走り去る子供たちを見送ると、旭雄は人魂花火を持った広瀬と視線を交わして微笑んだ。

「なんなんだよ今年はー!」

「も、もうすぐゴールだし、もう何もないよ!」

 しかし『ひゅーどろどろ』という音と共に、町内会長が扮する幽霊が現れる。

「うらめしやー……」

「うわー!」

 二人はそれを見ると一番大きな叫び声を上げ、泣きながらゴールに向かって走り出した。



 肝試しも終わり、静かになった雑木林で脅かし役の五人は笑った。

「よし、ガキどもみんなキャーキャー言ってたぜ」

「もう大丈夫だろうって安心してた最後の最後に町内会長さんが出てきたのも効果的でしたね」

「あそこまで驚かすのも少し可哀想だった気もするがな」

「でも、肝試しは怖いから楽しいんですよ」

 君沢の意見に三人は頷く。

「ま、良かったですね、今年は大成功で」

 晴海が町内会長の方を振り返ると、その姿が闇に溶け込んでいった。

「これで私も、成仏できます……」

 その言葉だけを残して……。

「え……」

 瞬きをする四人だったが、やって来た男の声に我に返った。

「ああ、あなた方が今年の肝試し大会を企画して下さったんですか」

「いや、俺たちは町内会長さんの……」

「そうそう、一ヶ月前に亡くなった町内会長さんも喜んでいるでしょうね。あんなにみんな怖がってくれたんだから。うちの娘も泣きながら帰ってきましたよ。最後に町内会長さんの幽霊が出て来たって。そっくりさんを探すのは大変だったでしょう」

 どうやらこの肝試しで一番恐ろしい思いをしたのは、便利屋晴天の四人だったらしい。
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テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2013/08/31(土) 21:16:02|
  2. 没小説
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