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18禁小説『どうか心の片隅に(プロローグ)』

 改訂版、千夜シリーズ一話目です。
 プロローグにはエロがありませんが、基本的に18禁なのでこのカテゴリで。
 塾の帰り、千夜は殺人鬼の犯行現場を見てしまう…。


プロローグ
 海戸千夜は授業で使ったテキストを、プリントや文庫本が乱雑に詰め込まれたカバンに仕舞った。
 ここ創知学院は大手学習塾で、どの科目も三クラスに分かれている。千夜はどの科目もトップクラスであり講師からも期待されている生徒だ。
 ショートカットの黒髪に整った顔立ち、ブラウスを押し上げる大きな胸は高校生とは思えないほどである。グレーのプリーツスカートから覗く太ももは肉付きが良く扇情的。
 誰もが彼女の才能や容姿を恵まれていると思っている。
「あ、海戸さん」
 教室を出ようとした彼女に、別の高校に通う男子生徒が声を掛けた。
「ああ、どうしたの?」
 彼、内田拓海は英語と国語で同じクラスに通う友人だ。
 背が低く大人しそうな顔立ちに丸い眼鏡。チェックのブレザー姿の彼は鞄から分厚い本を取り出す。
「この本、貸してくれてありがとう」
 それはアメリカで流行っているミステリー小説だがまだ日本では出版されておらず、千夜がネットで取り寄せたものだ。
「ああ、どうだった?」
 趣味の合う彼に、千夜は笑顔で問いかける。
「凄く面白かったよ! 良かったら一緒に帰らない? バスでこの本の話したいな」
「そうだね、そうしようか」
 二人が創知学院のある十階建てのビルを出ると、丁度目の前の停留所にバスが到着したところだった。
 時間はもう十時に近く、乗客は数人しかいない。
 二人がけの席の窓際に後で降りる内田が座る。
「まさか犯人があの人だとは思わなかったよ」
 内田はまだ驚きが冷めないといった様子で胸を撫で下ろす。
「だよね! でも読み返すと伏線が張ってあってさ。例えば一章のあのシーンに……」
 二人が話している間も、バスは海辺にあるこの町、晴空町を駆け抜けていく。
 住宅地に灯る明りは、それら全てに家庭があることを思わせた。
「僕には、人を殺す人間の気持ちは分からないや」
 内田は頬を掻き、小さく笑った。
「海戸さんは人を殺す人間の気持ちが知りたいからミステリーを読むんだって言ってたよね?」
「ああ、そんな話もしたっけ」
「うん、でも難しいや。どんなに相手を憎んでも、僕は怖くて殺せないと思う」
「ふふ、内田君は優しいね」
 千夜は微笑み、アナウンスが晴常高校前に到着すると告げているのに気付き、降車ボタンを押した。
「内田君も面白いミステリー見付けたら教えてよ」
「うん!」
「じゃあね」
 千夜は手を振り、停車したバスから降りる。
「人を殺す人間の気持ちは分からない、か」
 そう呟き、夜道を歩きだした。
 千夜が住んでいるマンションは、ここから数分の所にある。
 彼女が通う晴常高校の前を通り過ぎると、街路樹の向こうに公園がある程度。車道を走る車も少ない。
 とはいえ、慣れた千夜は特に恐怖を覚えることもなかった。
 しかし、その日はいつもと違った。突然絹を引き裂くような悲鳴がしたのだ。
「なに?」
 公園の方から聞こえたそれに好奇心を刺激された千夜は、立ち止まってそちらに目をやった。
 暗くてよく分からないが、街路樹の隙間から見える広場には男が立っているようにみえる。
 その時、車のライトで広場が照らし出された。
「えっ!」
 白いジャケットを着た茶髪の男。その足元に、制服姿の少女が倒れている。
 彼女の喉からは、血が溢れ出していた。
 男が、しっかりとこちらを見る。
 暗く深い、殺意を孕んだ瞳と目が合った。
 千夜はすぐに駆け出した。
 鞄を抱き締め、必死で走る、ただひたすら、マンションを目指した。
 二十階建ての高級マンションに辿り着くと、エントランスで自らの部屋番号を入力し、中に駆け込む。
 ――もし、もしも……。
 エレベーターの扉が開いた時、殺人鬼が立っていたら……。
 首を振って、そんな子供じみた妄想を打ち消す。
 扉が開いた。――目の前には廊下が伸びているだけだ。
 1207号室の前で財布に入れていた鍵を震える手で何とか取り出し、開錠した。
 ドアを開け、玄関の電気をつける。
 リビングに入っても何事もなく、千夜はほっと息をつきながらソファに体を沈めた。
「そうだ、警察……」
 スマートフォンを手に取る千夜。
「いや……」
 だが、彼女はそれをぽとりとソファに落とした。
「それじゃあ、つまらない」
 あの男の目、あれは普通の人間のものとは違った。
 本物の、殺人鬼の目だ。
 ――見てみたい、あの男の末路を……。
 こんな形で警察に捕まるのは、まだ早い。
 千夜は両手で顔を覆った。
「私も……、したい」
 もう一度、今度ははっきりとその言葉を口にする、
「私も、殺したい」
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テーマ:恋愛:エロス:官能小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2017/05/13(土) 19:40:10|
  2. 没小説
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