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小説『甘い殺意』

 以前『ミステリー作家絆紗々の事件簿』として書いたものを晴天用に書き直しました。
 ミステリー要素ありで、みるると紗々がメインの話です。


『甘い殺意』

 チラシを見ていたみるるが「わあ!」と声を上げた。
「どうした、安売りでもしてんのか?」
 晴海の問いかけに、みるるは首を横に振る。
「日曜日に晴常デパートでスイーツフェアやるんだって! 見て見て、すごくおいしそう!」
 そう言って、彼女は晴海と旭雄にケーキやチョコレートの写真を見せた。
「おー、確かにうまそうだな」
「ああ」
「行きたいなあ」
「俺たちはその日以来入ってっから行けねえけど、みるるだけでも行ってこいよ」
「いつも家事で大変だろう。休息も必要だ」
「ほんと? じゃあおみやげ買ってくるからね!」

 そして日曜日、デパートの9階で行われているスイーツフェアはなかなか盛況であった。
 多くは女性客で、彼女たちはショーケースに並んだ菓子を見ては「おいしそー」と目を輝かせている。
「えっと、まずはケーキを見て、それからチョコかな」
「あれ、みるるちゃん?」
 聞き覚えのある声に振り返ると、紗々がこちらに駆けてきた。
「紗々さんも来てたんだ!」
「うん、甘い物が好きでね」
「人留さんといっしょじゃないの?」
「彼は甘い物苦手だから。良かったら一緒に見て回らない?」
 紗々の申し出にみるるは頷く。
「一人より二人の方が楽しいもんね」
「ねー。そう言えば、作ってるところも見られるらしいね。チョコと飴細工と砂糖菓子だって」
「パティシエのパフォーマンスってやつだよね! あ、あそこかな? 人が集まってる」
 客が集まっている中央スペースに行くと、若いパティシエがチョコレート作りをしている。
「生クリームを入れるとガナッシュクリームになります。生チョコはこれで作るんですよ」
 彼はボウルに入ったドロドロのチョコレートを混ぜているところだった。
「生チョコかー、いいなあ」
「紗々さんもチョコ好きなんだ?」
「うん、大好き」
「あたしも!」
 紗々とみるるがそんな話をしている間も、パティシエは手早く作業を続けている。チョコレートは型に流され、冷蔵庫に入れられた。
「固まったら販売しますので、買ってくださると嬉しいです。もちろん、味見用もありますので」
 甘いマスクの彼がそう言ってウィンクをすると、見ていた女性客たちから黄色い悲鳴が上がった。
「はー、すごいね」
「やっぱりイケメンは得だ」
 紗々は肩を竦めると、パンフレットに目をやる。
「買ったスイーツは喫茶スペースで食べられるらしいし、一回腰を下ろそうか。見てたら食べたくなってきたよ」
「そうだね、あたしもそろそろ食べたい!」

 二人はフロアの隅にある喫茶スペースで紅茶を頼み、買ったケーキを食べ始める。
「おいしい!」
「こっちもいい感じ」
 みるるは苺のショートケーキを、紗々はザッハトルテを口に運び微笑んだ。
「これ、晴海さんたちに買って帰ろうかな」
「私は自分用に買い溜めしておくよ」
 ケーキにすっかり魅了された二人は目を輝かせ、舌鼓を打つ。
「そういえばさ」
「なあに?」
「みるるちゃんって、晴海君のこと好きだよね」
 突然そう言われ、みるるは「ええっ!」と声を裏返らせた。
「な、な、なんで!」
 口に出したことのない想いを見透かされ、顔は真っ赤になっている。
「晴海君の名前を出す時の表情とかね」
「えっと、すぐ分かっちゃうぐらい顔に出てるかな?」
「大丈夫。私の場合職業柄、他人の心理に敏感になってるだけだから」
「職業って、ミステリー作家だよね?」
「うん。私の小説は『心理描写の細やかさが売り』らしくてね。だから癖になっちゃって、表情やら仕草やら観察しちゃうの」
 紗々は頬を掻き、紅茶を飲む。
「すごーい! でも、晴海さんのことはナイショにしてね」
「もちろん」
 ケーキを食べ終えた紗々は、再びパンフレットに目をやる。
「もう少ししたら飴細工のパフォーマンスするって。見にいく?」
「あ、見たい! どんなのかなあ」
 みるるがそう言った時、悲鳴が聞こえた。
「何だろう?」
「行ってみよう」
 紗々はどこか慣れたように声のした方に向かう。みるるはそれを追った。
 人が集まり始めているのはスタッフルームだ。
「あ……」
 ドアを開けたまま立ち尽くしているのは、先程チョコレートを作っていたパティシエだった。
 部屋の中で、中年の男が胸から血を流して倒れていた。

 それから数十分後、このフロアから客は消え、代わりに警官で騒がしくなっていた。
 スタッフルームの側にいた警備員によると中に入ったのは関係者のみで、客が犯人という可能性は低いらしい。
 ということを若い刑事から聞いている紗々を、みるるはぽかんと見つめていた。
「君は?」
「え、え?」
 長い黒髪を後ろで束ねたパンツスーツ姿の女に声をかけられ、みるるはどう答えたものかと戸惑う。
「あ、あの、紗々さんといっしょにいて……」
「紗々と?」
 女の眉間にくっきりと皺が寄った。
「あ、皇城さん、久しぶり」
 紗々は満面の笑みを浮かべ、こちらへ戻ってきた。
「何故君がここにいる?」
「甘い物が好きだから。あ、みるるちゃん、彼女は皇城統。私の友達で刑事」
「友達じゃない!」
 統は大声で否定すると、溜め息をついた。
「上層部が何と言っても、私は君のことを認めていないからな」
「解決した事件は全部君たちの功績になってるんだから、問題ないでしょ」
「そういう問題じゃない」
 二人のやり取りを見ていたみるるの所に、先程まで紗々と話していた若い男性刑事が駆けてくる。
「こんにちは、宮原進といいます。いつもこうなんですよ、驚きました?」
 笑顔で話しかけられ、みるるは我に返った。
「桃里みるるです。あの、紗々さんって……」
「よく事件解決に貢献してくださってるんですよ。名探偵ってああいう人のことを言うんでしょうね」
「名探偵……」
「はい、毎回助けられてます」
「助けられてない!」
 統は宮原を怒鳴りつけると、こめかみを押さえて手帳を見る。
「とりあえず……、情報だ。容疑者は3人、今日ここで菓子を作ることになっていたパティシエたちだ。チョコレートを作っていた高崎友弥。飴細工をするはずだった中野圭人。砂糖菓子を作るはずだった武藤弘」
 統の話をまとめると、被害者はパティスリーオーナーの佐々木浩一。生きている姿を最後に見たのは中野で、それは12時半頃のことらしい。発見されたのが13時であることから、この30分の間に犯行が行われたのだろう。
「私たちもその3人に話を聞いていいかな?」
「好きにしろ。喫茶スペースで待機してる」
 ぶっきらぼうにそう言った統は、宮原の肩を強く叩いた。

「あの、皆さん、お話を聞きたいのですが」
 宮原が紗々とみるるを手で示すと、座っていた3人は目を瞬かせた。
「あの、あたしも来ちゃって良かったのかな?」
 みるるの問いかけに、紗々は「いいよいいよ」と言って笑う。
 容疑者である3人は訝しげに顔を見合わせたが、それぞれ納得した様子で自己紹介を始めた。
「主にチョコレートを取り扱っています、高崎です。オーナーが経営していたパティスリーの従業員です。二人も同じで……」
「飴細工をしている中野です」
「砂糖菓子を作っています、武藤です」
 全員二十代後半だろう。高崎は先程も言った通り甘いマスクの美青年で、中野は気弱そうな優男。武藤はガッチリとした逞しい男だ。
 紗々とみるるは彼らと向かい合うように座った。
「第一発見者は僕です。1時頃に休憩しようとスタッフルームに行ったら、オーナーが殺されていて……」
「なるほど。それで、中野さんが佐々木さんと最後に会ったんですね」
 紗々の問いに中野は頷く。
「はい、僕が12時半頃休憩しにいった時、オーナーと二、三言葉を交わしました。調子はどうだ、とか」
「武藤さんは?」
「俺はちょうど高崎がパフォーマンスしてた時、11時頃にスタッフルームに行きました。中野と同じように二言、三言オーナーと話して……」
 紗々が物腰柔らかなためか、三人は落ち着いてきたようだ。
「12時半から13時までの間、皆さんは何をしていましたか?」
「僕は販売の方に回っていました、お客さんと話しをしたり……。ただ、在庫を取りに行くため持ち場を離れる時はありました」
 高崎はアリバイと言えるほどのものはないらしい。
「僕はパフォーマンスのための準備ですね。裏で飴を溶かし始めていました。1人だったので、証言してくれる人はいません」
「俺も高崎といっしょです、販売の方ですね。俺も在庫とかは取りに行ったなあ」
 3人とも確固としたアリバイはなし、といったところだ。
「ありがとうございました」
 紗々はにっこりと笑って立ち上がり、「皇城さんからもう少し話を聞こう」と、スタッフルームに向かう。
 みるるも3人におじぎをすると、紗々の後を追った。
 『立入禁止』のテープが貼られたスタッフルームでは、統が唸っていた。
「どうしたの、皇城さん」
「凶器が見付からない。容疑者たちが使っている包丁とは幅が違うんだ……。持ち物も全部調べたが包丁以外に凶器になりそうな物は無かった」
「消えた凶器、か」
 紗々は人差し指で唇をなぞった。
「大体のことは、分かったけどね」
「え、紗々さん、犯人分かったの!」
 驚くみるるに、紗々は頷いた。

「犯人が分かりました」
 統がどこか忌々しげに言う。部外者である紗々が事件を解決するのは良い気分ではないらしい。
「本当ですか! 一体誰が!」
 中野が立ち上がる。
「この事件のポイントは凶器です。人を殺せるような物は包丁以外にない。しかし包丁は凶器ではない」
 紗々は人差し指を立てた。
「でもね、一つあるんです、凶器になり得る物が。皆さんの専門分野にね」
「俺たちの、専門分野に……?」
「はい、それは……」
「あの、ルミノール反応出ました!」
 宮原がボウルを手に駆けてくる。
「溶けた飴から!」
 皆の視線が中野に注がれた。
「溶けた飴を薄く固めて、先が尖るように割る。それだけで立派な凶器ができるんです。しかも使い終わったら血を洗い流して再び溶かし、飴細工に使うことで証拠隠滅になる。でも、ルミノール反応が出た以上言い訳はできませんよ」
 紗々に見つめられ、中野は何も言わず座り込んだ。

 中野は佐々木と独立のことで揉めていたらしい。その憎しみを語った後、連行されていった。
 こうして事件は解決し、紗々は車でみるるを送ると言ってくれた。
 助手席に座ったみるるは、紗々に目をやる。
「紗々さんって、すごいね」
「何が?」
「パッと事件を解決しちゃったの。本当に名探偵って感じだった」
 紗々は興奮気味らしいみるるの言葉に「ははは」と笑った。
「そんな格好いいものじゃないよ。私はただ、答えが欲しいだけなんだ」
 その言葉の意味はよく分からなかったが、紗々の笑顔に影が差したことにみるるは気付く。
 ――紗々さんも、何かを抱えてる……。
 それは晴海や旭雄も同様だ。ふとした時に彼らから感じる影。
「晴海君と旭雄君とさ、一緒にいてあげてね」
 まるで思いを見透かしたかのような紗々の言葉に、みるるは強く頷いた。
「もちろん!」
「いい返事だ」
 みるるは膝の上で拳を握り締めた。
 ――あたしにできることなら、何だってするよ。二人とも、大切な人だから……。
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テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2017/04/20(木) 21:08:01|
  2. 没小説
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