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小説『真夏の海は大騒ぎ』

 晴天四話、海水浴場に現れる水着泥棒を捕まえようとする晴海たち。


『真夏の海は大騒ぎ』

 夏といえば海。
 海といえば水着。
 水着といえば……。

「最近の水着は面積小せえなあ」
 双眼鏡で海――いや、海ではしゃぐ女たちを見つめていた晴海は息をついた。
「何を見てるんだ、お前は」
 旭雄は溜め息をつく。
 晴空市内の海水浴場は盛況で、砂浜に立てたパラソルの下、晴海が双眼鏡で辺りを見ていてもいちいち気にする者はいない。
「ジュース買ってきたよー」
 三人分のオレンジジュースを抱えてきたみるるから「サンキュ」と晴海は缶を受け取る。
 パーカーに海パンという晴海と旭雄、そしてピンク色のワンピースの水着姿のみるるは海を満喫しているように見えるが、これも仕事のうちだ。
「水着泥棒、見付かった?」
「いや、今のところそれらしいやつはいねえな」
 今回の依頼人は三日後サークルの仲間と海水浴に行くという女子大生。
 この海では最近水着泥棒が多発しているということで、安心して楽しめるように捕まえてくれと頼まれたのだ。
「泳いでる女の人から強奪するんだよね?」
「ああ、なかなかに厄介だよ。泥棒っていうより追い剥ぎだ」
「女の敵だよ!」
 そう言ってみるるは晴海から双眼鏡を受け取った。
「確かに、放っておくのは危険だな」
 旭雄はオレンジジュースに口を付け、肩を竦める。
「あっ」
「どうした?」
「いたのか?」
 みるるが声を上げたため、二人は慌ててそちらを向く。
「ううん、あの人たちって……」
「ん?」
 手を振りながら、海からこちらへ向かってくる二人。
 熊のような大男と黒いビキニに豊満な身体を包んだ女――人留と紗々だ。
「やあ、君たちも遊びに来たの?」
 紗々は大きな胸を揺らし周囲の男たちの視線を集めているが、本人は気にしていない様子。
「俺たちは遊びじゃねえよ、仕事」
 晴海はついついその身体を凝視しそうになりながらも、人留のむっすりとした表情に気付き目を逸らす。
 みるるは紗々の豊かな胸と自分の平たい胸を交互に見ては溜め息をつき、旭雄は元から興味もないのか普通に接している。
「仕事か、せっかくの海なのに大変だねえ」
「お前だって半分は仕事だろ。海水浴場の話を書くからって」
「ああ、そういえばそうだった」
 紗々は人留に指摘されてとぼけたように笑った。
「もう少し泳いでくるから、アイス買ってきて」
「パシリか、俺は」
「ちゃんと恋人だと思ってるよ」
 その言葉に人留は顔を赤らめ「分かった」と海の家に向かう。
「じゃあ、お仕事頑張ってねー」
「おう」
 晴海は海に戻っていく紗々の背中を見送ると、息をついた。
「なかなか刺激が強いよな、あの人」
「それほど気にするものじゃないだろう」
「旭雄さん、ほんとに興味ないの?」
「好意を持っている相手に心を乱すのなら分かるが」
「イケメン発言だな」
 晴海は苦笑し、再び双眼鏡で海を見つめる。
「そういえば仕事って言ってたけど、紗々さんって何してる人なの?」
 みるるは紗々に関してほとんど知らないことばかりだと思い至り、二人に尋ねた。
「ああ、あの人はミステリー作家だよ」
「割と有名らしい」
「へー、作家さんなんだ」
 先程の人留の発言に合点がいき、みるるは頷く。
「で、人留さんとは恋人同士」
「ミステリー作家と探偵のカップルって凄い!」
「何の話だ」
 ソフトクリームを手にした人留が後ろから訊く。
「お、彼氏さんのお帰りだ」
 晴海はニヤニヤと笑いながら人留の方を向いた。
「俺は振り回されてばっかりだよ、いつもな」
「それも幸せなんでしょ。独り身はつれえなー」
 そう言って海に視線を戻すと、こちらに手を振っている紗々が見えた。
 ――いや、違う?
 その頭が水中に沈んだことで、晴海は異変に気付く。
「紗々さん、溺れてるみてえだ!」
「何だと!」
 走り出した晴海に人留が慌てて続く。
 女の身長では足が付かない辺りで、紗々はもがいている。
 人留は水を掻き分けながら辿り付き、彼女の手を引いた。
「ぷはっ! なんか、足掴まれて……」
 そのまま抱き上げられた紗々は酸素を取り込むべく息を吸う。
「大丈夫か! ――って、早く隠せ!」
「え?」
 紗々の胸からはビキニが無くなり、大きな乳房が露わになっていた。
「な、何で!」
 すぐさま手で隠す紗々の顔は流石に赤くなっている。
「おい、やったのこいつじゃねえか!」
 紗々の救助を人留に任せていた晴海は、カメラを持った気の弱そうな男の手を掴んでいた。

 五人は海の家で男への尋問を始めていた。
 人留のパーカーを着た紗々はもう落ち着いたようである。
「お前が水着泥棒ってわけか?」
 晴海に凄まれ、男はたじろぐ。
「い、いえ、僕は違います」
「紗々さんが溺れてたとき、すぐ側から逃げようとしてただろ」
「僕はただ、海の中を撮っていただけです。やましいことは何も……」
「じゃあ、そのビデオの映像を見せてみろ」
 人留がバンッとテーブルを叩く。
「いや、これは大事なものなのでちょっと」
「観念するんだな」
 旭雄が男の手からビデオカメラを取り上げる。
「どれどれ」
 再生されたビデオの画像を覗き込んだ紗々は溜め息をついた。
 映っているのはしなやかに泳ぐ紗々の姿。だが水流で揺れる乳房がズームアップされると男の目的がはっきりする。
「盗撮じゃない!」
 みるるは腰に手を当て、男を睨み付ける。
「盗撮までしてたのかお前!」
 人留は怒り心頭に発した様子で男に詰め寄る。
「い、いえ、偶然映ってしまっただけで……」
「その割にはしっかり撮れてるじゃないか」
「ちょっと待って」
 紗々が映像を見たまま声を上げた。
「どうした?」
「誰かが、足を掴んでる」
 確かに太ももへと被写体が変わったところで、膝を掴む大きな手が映っていた。
「火傷の痕があるな」
「じゃあ、水着泥棒は手に火傷のあるやつってことか?」
 旭雄と晴海が話していると、
「ご注文のかき氷でーす」
 と、店員が紗々の前に盆を置く。
 その手には、全く同じ火傷の痕があった。
「お前か!」
 人留がその手を掴む。
「な、何ですか!」」
「この映像が動かぬ証拠ですよ」
 紗々はビデオを店員に突き付ける。
「それは……」
 店員は言い逃れできないと悟ったのか、その場に座り込んだ。

「つまり、水着が売れないから盗ってたってことか?」
 簡素なスタッフルームで、晴海は呆れ声を上げた。
「はい、水着を盗ったら困ったお客さんがここで買ってくれると思いまして……」
 がっしりとした店員だが、項垂れている姿は小さく見える。
 旭雄は腕組みをし、溜め息をつく。
「だからって許されると思ったのか?」
「すみません、ここは親父から受け継いだものなんです。それが経営不振で潰れるかもしれないと思うと、いてもたってもいられなくて……。あの、水着は何着でも持って行ってください! だからどうか警察には!」
 お人好しな便利屋の三人は親から受け継いだ店という言葉に弱く、困ったように紗々と人留を見る。
「紗々は溺れかけたんだぞ」
「まあいいよ、大丈夫だったし」
 紗々は苦笑した。
「まあ、代わりの水着はいただきますよ」
「ありがとうございます! 水着はこちらにありますから!」
 彼はダンボール箱から紺の旧式スクール水着を取り出す。
「それは……」
「お気に召しませんか? ではこちらは」
 次に出てきたのは、白のやはりスクール水着。
「あ、ゼッケンにお名前も入れられます!」
「そりゃあ売れねえわけだよ」
 晴海は溜め息をついた。
「あの、僕の容疑は晴れましたよね、じゃあ失礼します」
 ビデオカメラを持った男はスタッフルームを出ようとして晴海に襟首を掴まれた。
「お前は警察行けよ、盗撮ヤロー」
 夏の海は、騒がしい。
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テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2017/04/05(水) 15:22:14|
  2. 没小説
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