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小説『肝試しの怪』

 以前書いたものの修正版です。肝試し大会の手伝いをする晴海たちのお話。
 久々の非18禁小説です。


『肝試しの怪』

 夏も終わりかけたある日のこと、便利屋晴天に一人の客が来ていた。
 君沢が老人の前に茶を置く。
「で、どういう依頼なんだ?」
 晴海は依頼人を促した。
「はい、私は隣町で町内会長をしているのですが、毎年夏休みの終わりになると子供たち相手の肝試し大会を主催しておりまして」
「肝試し……」
 旭雄はどこか懐かしい響きに「ほお」と感嘆の声を上げる。
「はい、ただ忙しい時期なのかなかなかご近所の方々の手も借りられませんで、集まっても私のような年寄りばかりでは子供たちを驚かせる斬新なアイディアも思い浮かばず、いつも子供たちは怖がってくれないんですよ」
「まあ、最近の子供はゲームやら映画やらで慣れてっしな」
「しかも今年はあと一週間だというのに、年のせいでいつもの仲間も寝込んでしまい何の準備もできていないんです。私一人でできるわけもなく……」
「それは大変ですね」
 親身になって聞いていた君沢が同情の言葉をかける。
「だから、皆さんの力をお借りして、今年こそは肝試し大会を成功させたいのです」
「いいじゃねえか」
「ああ、町内行事は盛り上がらないといけない」
「頑張りましょうね」
 三人は顔を見合わせ、笑った。

 町内会長に連れられてやってきたのは隣町の雑木林。
 鬱蒼と木が茂ったそこは、暗くなるとなかなか雰囲気があるだろう。
「普段はどんな驚かせ方をしてるんですか?」
 君沢の問いに町内会長は頭を掻いた。
「そうですね、普通にこんにゃくを糸で吊したり、私たちが幽霊の格好をしたり……。それでは古いですよね」
「幽霊の格好にしてもマスク使うとかはどうだ? 安くてリアルなやつもあるだろ」
「あ、晴海さんナイスアイディア!」
「それで追いかけるとかはどうだろう?」
 旭雄が言うと、晴海が手を打つ。
「そうだな、追いかけられるってのは結構怖いぜ。つか、お前は和服だし血糊付けたらマスクとか無くても結構怖いんじゃねえか?」
「そういえば、ポスター作りなんかもまだですよね? ここに来るまでに一枚も見なかったし」
「はい、準備がなかなか間に合わず……」
「じゃあ俺がポスター描きますよ」
「よし、しっかり準備しようじゃねえか!」
 晴海の言葉に、皆頷いた。

 慌ただしく一週間が経ち、肝試し当日がやってきた。
「晴海さん、用意できましたか?」
 待機所代わりに作られたテントの中、準備をしている晴海に声をかけた君沢は「わっ!」と声を上げた。
「何ですか、それ!」
 振り返った晴海の顔は半分が崩れ、髑髏になっている。
「結構怖いだろ。最近のマスクは精巧にできてんなー」
「俺はこれでいいのか」
 その隣で正座をしている旭雄の顔には血糊がべっとりと付いていた。
「なんか迫力ありますよ……。じゃあ俺は人魂花火で驚かせますから」
「こんにゃくより怖そうですね」
 そんな中では、オーソドックスな白装束の幽霊という格好をした町内会長も恐ろしく見えた。
「私はゴール前で出るということで」
「最後ぐらいはオーソドックスな幽霊がいねえとな」
「その方が情緒もある」
「もうすぐ開始時間だな、ガキどもをびびらせてやんぞ!」

 二人組になった少年が、雑木林の中を懐中電灯の灯りだけを頼りに歩いて行く。
「どうせまた子供だましの仕掛けだろー」
「あはは、今時こんにゃくじゃびびらないよなー」
 余裕といった様子の子供たちの目に、いつもとは違うものが飛び込んできた。
 ゆらゆらと揺れる青白い光だ。
「あ、あれ、人魂?」
「で、でも、どうせ花火かなんかだろ……」
 花火を手に持って隠れている君沢は頬を掻いた。
 ――最近の子って鋭い……。
 しかしここで晴海の出番だ。
「俺の顔を返せ……」
 人魂の向こうから現れた晴海は俯き、地を這うような声を出す。
「え?」
「俺の顔を返せー!」
 パッと顔を上げ叫ぶと、彼は立派なモンスターとして子供たちの目に映った。
「うわー!」
「待てー!」
 走り出した子供たちを、晴海は追い付かない程度の速さで追いかける。
「な、なんだよあれー!」
「今年、マジでやばいよ!」
「お前たちの顔をよこせー……!」
 声が遠くなっていく。子供たちはモンスターから何とか逃げ延びた。
 晴海は打ち合わせ通りの距離を走ると持ち場に戻ったのだ。
「も、もう追いかけてこないよな……」
「う、うん……、ここまで来たら……」
 胸を撫で下ろす二人の前に、次の恐怖が襲い掛かる。
 和服姿の男だ。
「憎い……。俺を斬った奴が憎い……」
「な、何だよ、あいつ……」
「末代まで祟ってやる……」
 血糊を付けた旭雄はゆっくりと二人を睨み付けた。
「なんなんだよ今年はー!」
「も、もうすぐゴールだし、もう何もないよ!」
 だが、ひゅーどろどろという音と共に、町内会長が扮する幽霊が現れる。
「うらめしやー……」
「うわー!」
 二人はそれを見ると一番大きな叫び声を上げ、泣きながらゴールに向かって走り出した。

 肝試しも終わり、静かになった雑木林で脅かし役の五人は笑った。
「ガキどもみんなキャーキャー言ってたぜ」
「もう大丈夫だろうって安心してたところに町内会長さんが出てきたのも効果的でしたね」
「あそこまで驚かすのも少し可哀想だった気もするがな」
「でも、肝試しは怖いから楽しいんですよ」
 君沢の意見に二人は頷く。
「ま、今年は大成功で良かったな」
 晴海が町内会長の方を振り返ると、その姿が闇に溶け込んでいった。
「はい。これで私も、成仏できます……」
 その言葉だけを残して……。
「え……」
 瞬きをする三人だったが、やって来た男の声で我に返った。
「ああ、あなた方が今年の肝試し大会を企画して下さったんですか」
「いや、俺たちは町内会長さんの……」
「そうそう、亡くなった町内会長さんも喜んでいるでしょうね。あんなにみんな怖がってくれたんだから。うちの娘も泣きながら帰ってきましたよ。最後に町内会長さんの幽霊が出て来たって。そっくりさんを探すのは大変だったでしょう」
 どうやら肝試しで一番恐ろしい思いをしたのは、この三人だったらしい。
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テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2017/02/09(木) 21:01:52|
  2. 没小説
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