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第一話『どうか心の片隅に』

 全年齢対象ミステリーだった私あまを、18禁ミステリーに書き直してみました。
 水上と千夜の出会いや彼女の過去をエロありで楽しんでください、ということで。
 処女喪失、レズプレイ、比較的イチャイチャえっちなどあります。


『どうか心の片隅に』

プロローグ
 海戸千夜は授業で使ったテキストをプリントや文庫本が乱雑に詰め込まれた鞄に仕舞った。
 この創知学院は大手学習塾で、どの科目も三クラスに分かれている。入塾テストの成績でクラスが決まるのだが、千夜はどの科目もトップクラス。講師からも期待されている生徒だった。
 黒髪をショートカットにし、整った顔立ち。グレーのブレザーを押し上げる高校生とは思えぬほど大きな胸に、黒のプリーツスカートとニーソックスの間から覗く肉付きの良い太もも。
 男ならばつい彼女を注視してしまうだろう。
 海戸千夜は恵まれている。
 皆が彼女の才能や容姿についてそう思っていた。
「あ、海戸さん」
 教室を出ようとした彼女に、別の高校の男子生徒が声をかけた。
「ん? ああ、内田君」
 内田拓海は英語と国語が同じクラスの、ここでは友人と呼べる相手だった。
 背が低く大人しそうな顔立ちに丸い眼鏡。チェック柄のブレザー姿の彼は、鞄からハードカバーの分厚い洋書を取り出す。
「この本、貸してくれてありがとう」
 それはアメリカで流行っているミステリー小説だが、まだ和訳はされていない。そのためミステリー好きの千夜がネットで取り寄せたものだ。
「ああ、どうだった?」
 千夜は微笑み、問いかける。
「凄く面白かったよ。あの、もし良かったら一緒に帰らない?」
「そうだね、同じ方向だっけ」
「うん、海戸さんより遠いけど」
「じゃあ、そこまで一緒に」
 二人が創知学院のある十階建てのビルを出ると、丁度目の前のバス停にバスが到着するところだった。
 時間はもう十時に近く、乗客は数人しかいない。
 二人がけの席を見付けると、後に降りる内田が窓側の席に座った。
「いやあ、まさか犯人があの人とは思わなかったよ」
 内田はまだ驚きが冷めないといったように胸を撫で下ろす。
「確かに意外な犯人だったよね。でも読み返すと伏線が張ってあってさ。例えばあのシーンで……」
 二人が話している中、バスは海辺にあるこの街を駆け抜けていく。
 住宅街に灯る明りはそれらの家に家庭があることを思わせた。
 家はただの箱ではない。人が住んでおり、それぞれの家庭が築かれている。
「僕には、人を殺す人間の気持ちは分からないや」
 内田は頭を掻き、小さく笑った。
「海戸さんは、人を殺す人間の気持ちを知りたいからミステリーを読むんだって言ってたよね」
「ああ、そういえばそんなことも話したっけ」
「うん、でも難しいね。どんなに相手を憎んでも、やっぱり怖くて殺せないと思う」
「そっか、内田君は優しいね」
 千夜は微笑み、アナウンスが「次は晴常高校前」と告げているのに気付き、降車ボタンを押した。
「私は次で降りるね。内田君も面白いミステリー見付けたら教えてよ」
 バスがスピードを緩め始めると、千夜は立ち上がる。
「うん!」
「じゃあね」
 手を振り、バスを降りた千夜は息をついた。
「人を殺す人間の気持ちは分からない、か」
 そう呟き、夜道を歩き出す。
 千夜が住んでいるマンションはここから十分ほどの所にある。
 晴常高校の前を通り過ぎると、街路樹の向こうに公園がある程度。車道を走る車も少ない。
 女子高生が一人で歩くには危ない道と言えるだろう。
 だが、千夜は特に恐怖を抱くこともない。
 なにせ週に三回、同じ時間にこの道を通っているのだ。
 しかしその日はいつもと違った。絹を引き裂くような音がしたのだ。
「何だろ」
 公園の方から聞こえたそれが気になった千夜は立ち止まり、そちらに目をやった。
 暗くてよく分からないが、街路樹の隙間から見える広場には男が立っているように見える。
 その時、車のライトで広場が照らし出された。
「っ!」
 白いジャケットを着て黒髪を撫で付けた、アゴ髭の男。その足元に制服姿の少女が倒れている。
 彼女の喉からは、血が溢れていた。
 男がこちらを見る。サングラスを黒い革手袋に包まれた手で外し、しっかりとこちらを見た。
 暗く深い、殺意を孕んだ瞳と目が合った。
 千夜はすぐに駆け出した。
 鞄を抱きしめ、必死で走る。自分が住むマンションを目指した。
 二十階建ての高級マンション、そこに辿り着くとエントランスで自らの部屋番号を入力し、中に駆け込む。
 エレベーターはすぐに下りてきた。乗り込み、十二階のボタンを押す。
 ――もし、もしも。
 エレベーターの扉が開いた時、殺人鬼が立っていたら……。
 首を振り、そんなホラーじみた妄想を打ち消す。
 扉が開く。――目の前には廊下が伸びているだけだ。
 1207号室の前で鍵を探す。財布に入れていたそれを震える手で取り、開錠した。
 ドアを開け、玄関の電気を点ける。
 殺人鬼がリビングで待ち構えていることもなく、ほっとした千夜はソファに体を沈めた。
「そうだ、警察」
 スマートフォンを手に取る千夜。
「いや……」
 だが、彼女はぽとりとそれをソファに落とした。
「それじゃあ、つまらない」
 あの男の目、あれは普通の人間のものとは違った。
 本物の、殺人鬼の目だった。
 ――見てみたい、あの男の末路を……。
 警察に捕まるのは、まだ早い。
 千夜は息をつき、両手で顔を覆った。
「私も……、したい」
 もう一度、今度ははっきりと繰り返す。
「私も、殺したい」



第一章
 混雑した駅のホームで、千夜は前に立つ男の背中を見つめていた。
 スーツ姿のその男は、無防備な背中を晒している。
 ――今なら、この男を殺せる……。
 千夜はごくりと唾を飲み込んだ。
 周りの人間たちはスマートフォンをいじっていたり文庫本を読んでいたり、と他人に興味はないらしい。
 絶好のチャンスと言えた。憎い男を殺す、チャンスだ。
 千夜は大きく息を吸い込んだ。
「電車が参ります、ご注意ください」
 そのアナウンスを聞きながら、息を吐き出す。
 あと何秒だろう。この男の命の火が尽きるまで。
 電車が見えた。
 千夜は思い切り手を突き出した。
 男は背中を押され、バランスを崩す。ホームに留まろうとするが足は絡まり、死へのステップを踏む。
 電車のブレーキ音を聞きながら、千夜は背を向けた。
 ――ああ、やっとあんたを殺せた。

「ん……」
 千夜はベッドで目を覚ました。
「ああ、夢かあ」
 体を起こし、息をつく。
「嫌な夢」
 まだ掌に、あの男の背中の感触が残っているようだ。
 千夜の部屋にはベッドや机の他に本棚がある。
 本棚には様々な本が詰め込まれていた。
 ミステリー小説が多いが、中には高校生が読むとは思えない専門書も収まっている。
 彼女の成績がトップクラスなのは、それらから得た知識のおかげと言えるだろう。
 千夜はピンク色のパジャマ姿のまま洗面所に向かう。
 顔を洗ってさっぱりすると、リビングでテレビを点け、コンビニの菓子パンの封を開けた。
 特に料理をすることのない千夜には、真新しいダイニングキッチンは無用の長物だろう。
 パンにコーティングされたチョコレートの香りで、頭が覚醒していく。
 それを齧りながらテレビに目をやると、昨夜通った道が映っていた。
「あ」
 やはりあの公園で女子高生が殺害されていたらしい。
 千夜はワイドショーに集中した。
 コメンテイターが「やはり『現代の切り裂きジャック』でしょうか」などと話している。
「現代の切り裂きジャック、かあ……」
 それはここ最近話題になっている殺人鬼だ。マスコミによると被害者――この一ヶ月で三人、昨夜で四人目だ――が全員売春をしていたらしく、週刊誌やワイドショーでは犯人のことを現代の切り裂きジャックと呼んでいる。
「死体蹴りだよな」
 被害者は私生活を暴かれ、ネットでは殺されて当然の売女扱いをされている。
「ま、いいけど」
 千夜は肩を竦めて残ったパンを口に詰め込み、ハンガーに掛けていた制服を取った。
 それに着替え、三年生であることを示す赤いネクタイを締める。
「さ、そろそろ行かなきゃ」
 千夜は通学鞄を手に取り、専門家らしき男が現代の切り裂きジャックのプロファイリングをしているのを見て、テレビを消した。
「あれは三十代、かな」
 昨日の男を思い出し、小さく呟く。
 玄関に向かう千夜には「行ってきます」を言う相手がいない。
 去年母が他界し、その位牌も田舎に住む祖父の家にある。
 千夜は何も言わずドアに鍵をかけると、エレベーターに向かった。

 マンションから歩いて二十分ほどの所にある晴常高校。その校門付近は生徒たちで賑わっている。
 八時を少し過ぎた今は、朝練などのない生徒たちが登校してくる時間だった。
「もう二人とも来てるかな」
 千夜は呟き、南校舎の階段を上がる。
 三年一組の教室に入ると、クラスメートは半数以上来ており、思い思いの話に興じている。
 千夜は窓際の席で雑誌を読んでいる男子二人の後ろから手元を覗き込んだ。
「おはよ、高石君」
「お、おおっ!」
 長い金髪を結った少年、高石正太が驚いたように振り向く。
「私はこの子が可愛いと思う。清純そうで」
 そんな高石に向かってニヤリと笑うと、千夜は彼が見ていたグラビアページに載っている少女を指差した。
 その隣で、
「お、千夜いい趣味してんじゃん」
 と、黒髪に分厚い眼鏡という地味な印象の秋葉貴弘が頷いた。
「いやいやいや、こういうのは男の会話だろ! 何で千夜が参加してんだよ!」
 高石は顔を赤くして雑誌を閉じるが、千夜と秋葉は顔を見合わせて笑う。
「ちなみに高石の好みは巨乳らしいぜ」
「まだまだ若いねー」
「いや、同い年だろ! つーか……、昨日殺人事件があっただろ。お前のマンションのすぐ近くで」
 高石は無理矢理話を変えにかかった。
「あれね、今朝ワイドショーで見たよ。現代の切り裂きジャックかとか言ってたけど」
「千夜は大丈夫なのか? 塾の帰り、遅くなるんだろ?」
 彼は本気で心配している様子だが、千夜は苦笑する。
「切り裂きジャックの件について大丈夫かって言ってるなら、私は売春とかしてないから狙われることはないかな、としか」
「お、俺は危ないこと全般について言っただけで、お前が売春してるとか思ってないからな!」
「高石、千夜もからかってるだけで本気にしてねえから」
 秋葉はけらけらと笑う。
「ま、笑い事じゃなく気を付けた方がいいと思うぜ」
「まあねー。というか秋葉君こそ大丈夫? 遅くまでバイトしてるじゃん」
「俺も売春はしてない」
「お前がしてたらこえーよ」
 高石が秋葉にツッコミを入れる。
「でも、何で現代の切り裂きジャックなんだ? ジャックって誰?」
 その問いに千夜は、
「ジャックは名無しの権兵衛みたいなもんだよ。十九世紀ロンドンで売春婦ばかりが殺された事件の犯人。未解決だから名前も分かってないの」
 と、答える。
「へー、千夜ってそういうのよく知ってるよな」
「切り裂きジャックはミステリーではよく使われるネタだからね」
「でもさー、現代の切り裂きジャックじゃなくて、切り裂き権兵衛って呼べばよくね? ジャックだとなんか格好良くて腹立つ」
「それは和風……、なのか?」
 高石の発想に秋葉は呆れたようだが、千夜はツボにはまったようでくっくっくっと笑う。
「まあ切り裂き権兵衛なら模倣犯は出ないだろうねー。普通にダサい」

 六時間目の授業が終わり、千夜は「うーん」と伸びをする。
「この後どうするかなー」
 六時間目は選択授業で、音楽の授業を取っている千夜は特に話し相手もいない。ちなみに秋葉は美術、高石は書道の授業を取っている。
 荷物は持ってきているので教室に戻る必要もない千夜は、このまま帰ることにした。
 音楽室のように普段使わない教室は北校舎にある。千夜は三階から階段を下りていった。
「ん?」
 踊り場で蹲っている女子がいるのに気付く。
「大丈夫?」
 千夜は階段を駆け下り、彼女に声をかけた。
 こちらを向いた少女の顔は、紙のように白い。
「顔色悪いよ、保健室行く?」
「大……、丈夫……」
 掠れた声で返す彼女は、話したことはないがクラスメートだった。
「えっと、香川さんだよね」
 確か、香川弓子だったはずだ。
「ええ、海戸さん」
 弓子は弱々しく微笑む。
「ちょっと貧血を起こしただけだから、気にしないで」
「そう? でも保健室に行った方が……」
「いいの、ありがとう」
 本人がそう言うのなら、千夜が強制することではない。
「じゃあ、お大事に……」
 千夜はそう言ってまた階段を下りていった。
 しかし、どうも彼女のことが気にかかる。
 普段あまり他人のことを気にしない千夜だが、何故か気になった。
「仕方ないなあ……」
 千夜は手洗い場に入ると、ポケットから取り出した水色のハンカチを濡らした。
 そして、先程の踊り場に戻る。
「お節介かもしれないけど、これ額に当てたら少しすっきりするかもよ」
 千夜はまだ蹲っていた弓子にハンカチを差し出した。
 弓子は目を瞬かせると、
「ありがとう」
 と言ってそれを受け取り、額に当てた。
「気にしないで」
 千夜はしゃがみ込み、弓子の頬に触れた。
「熱っぽくはないね。貧血かー、私も昔、よく貧血起こしたなー」
「そう、なの?」
「うん、朝礼中とか、よく保健室に行ったもんだよ」
 千夜は自分の中学時代を思い出す。
「今は、大丈夫なの?」
「うん、しばらく薬飲んでたら治った」
「良かった」
 弓子は普通に話せる程度には回復したらしい。
「体質とか薬で改善できるしね」
「そうなのね」
 弓子は長い黒髪を揺らし、頷いた。純和風美少女といった感じである。
「海戸さん」
「ん、何?」
 何が起こったのか、一瞬分からなかった。
 弓子の顔が近付き、唇が千夜のそれに触れる。
 さすがの千夜も、反応ができなかった。
「ごめんなさい」
 弓子は真剣な顔でそう言うと、ふらつきながら立ち上がった。
 千夜は言葉を返せない。
「本当に、ごめんなさい」
 弓子はもう一度謝罪すると、ゆっくりとだが階段を上がっていった。
「いや、うん……」
 弓子の姿が二階に消えてから、千夜は唇を押さえた。
「アメリカ人の、挨拶的な?」
 ――じゃ、ないか……。
 弓子の表情は真剣そのものだった。
 あれは、純粋な好意からくる口付けに思えた。
「うーん……?」
 千夜は背中を壁に預け、その場に座り込む。
「最近の子の行動は、よく分からんなあ」
 そう呟き、溜め息をついた。
 ハンカチのことなど、すっかり忘れていた。

 翌日、教室に入った千夜は妙な雰囲気を感じ取った。
 生徒たちはどこか深刻な顔をし、声を落として喋っている。
 その様子に千夜は首を傾げ、先に来ていた二人の元に駆け寄った。
「ねえ、何かあったの?」
「なあ、千夜は香川と喋ったことあったか?」
 高石がいつもより小さな声で尋ねる。
「香川さん、か……。昨日ちょっと話したよ」
 キスされたとはさすがに言えない。
「昨日、亡くなったって」
 秋葉の言葉に、千夜は目を瞬かせた。
「そういや具合悪そうだったけど、病気?」
「いや、殺された、らしい」
「ええ、殺されたって……」
「俺、今日日直だったから職員室行ったんだけど、東尾が話してた。なんか、酷い有様だったって……」
 担任教師の名前を出して顔を顰める秋葉に、千夜は「そっかあ……」と言葉を返す。
 クラスを支配する重い空気はそのせいらしい。ただ死んだのではなく殺された。
 しかし、涙を零している者はいなかった。彼女はクラスに友人というほどの者がいなかったのかもしれない。
 千夜自身、悲しいというより驚いたという気持ちの方が強かったのだ。

 その日の放課後、弓子の通夜が行われた。
 学校の近くの葬儀場で行われた通夜には制服で行くのが好ましいとのことで、ほとんどの生徒たちがそのまま来ている。千夜たちもそうだ。
 前方のパイプ椅子には親類であろう大人たちが、後方には三年一組の生徒や教師たちが座っている。
 ――お母さんのお通夜を思い出すな。
 千夜はふと思った。
 母の通夜や葬儀は祖父に任せきりで、千夜はただぼんやりとその光景を眺めているしかできなかった。
 ――でも、あの時ってこんな感じだったっけ。
 母の通夜ではすすり泣く声が聞こえてきた気がするが、今はただ読経の声が響くだけだ。
 どこかピリピリした空気すら感じ、千夜は居心地の悪さを覚えた。
 焼香の順番も淡々と過ぎて行き、通夜は終了する。
 黒い額縁の中で静かに微笑んでいる弓子が、印象的だった。
 千夜は自らの唇を撫でる。
 ――結局、あの時のキスの意味は分からず終い、か。
「この後、どうする?」
 少しボーッとしていたところを高石に声をかけられ、我に返った千夜はパイプ椅子から立ち上がった。
「ああ、どうしようか」
「とりあえずここ、出ようぜ」
 秋葉も居心地の悪さを感じていたのかもしれない。
「うん」
 会場から出たところで、千夜は足を止めた。
「ごめん、ちょっとお手洗い行ってくる」
 そう告げ、出口と反対の方に向かう。
 角を曲がろうとした時「何でこんなことに」という声が聞こえ、千夜は足を止めた。
「私だって分からないわ」
 続く言葉からも深刻な話のようで、姿を現しづらくなった千夜はこっそりと覗くことにした。
 声の主は喪服姿の弓子の両親だ。
 ――香川さんのこと、悲しんでるのかな。
 通夜の席では気丈に振る舞い、涙を見せなかっただけかもしれない。
「あの子が妊娠してたなんて」
 神経質そうな顔立ちの母親の言葉に、千夜は上げそうになった声をなんとか飲み込んだ。
「こんなこと、我が家の恥だぞ。親戚連中も内心笑ってる」
 生真面目そうな父親が、ぎりっと奥歯を噛み締める。
「本当に、あの子は何を考えてたのかしら。死んでまで迷惑をかけて」
 そこまで聞いていた千夜はいたたまれなくなり、手洗い場には行かずに友人たちの元へと戻った。
「立ち止まってたけど、どうしたんだ?」
 長い廊下だ、高石たちに声は聞こえなかったのだろう。
「いや、やっぱり今はいいやと思って」
 千夜は取り繕うようにそう言った。
「そうか? とりあえずファミレスでも寄ってく?」
「うん」
 秋葉の言葉に千夜は頷いた。

 ファミレスでも特に盛り上がるということはなく、千夜はマンションに戻った。
 両親の言っていた通り、弓子は妊娠していたのだろう。あの時貧血と言っていたのは、つわりだったのだ。
 ――でも、誰の……。
 ドアを開け、玄関の電気を点ける。
 そして、リビングのドアを開けた。
「よお」
 ダイニングテーブルの向こうにあるソファ、そこに彼は座っていた。
「海戸千夜、ちゃん?」
 あの時公園にいた殺人鬼が、革手袋に包まれた手で晴常高校の校章が付いた生徒手帳をひらひらと見せる。
 千夜は目を見開き、後ずさった。
 殺人鬼は立ち上がり、すたすたと千夜に近付いてくる。
「な、なんで……」
「マンションに侵入するくらい、簡単なこった」
 千夜は玄関に向かって駆け出そうとする。
 だが、男はその腕を掴んで引き寄せた。
「は、離して……」
「大丈夫、殺したりはしねえよ」
 彼は千夜をこちらに向かせると、ニヤリと笑った。
「俺の名前は水上圭。お前の仲間だ」
「仲間……?」
「お前だって、人を殺したいんだろう?」
 その言葉に、千夜の体が固まる。
「私、は……」
「目を見れば分かる」
 水上はそう言いながら、器用な手付きで千夜のネクタイをしゅるりと外した。
 そしてそれで、千夜の腕を後ろ手に縛ってしまう。
「な、何するんですか!」
 我に返った千夜は腕の中から逃れようとするが、水上の力は強い。
「俺は嬉しいんだよ、お前みたいな可愛い仲間を見付けられてさ。一目惚れと運命が一度にきた感じだ」
「仲間なんて言わないでください。私は、人を殺したりなんて……」
「迷ってるんだろ、お前は。殺すべきか殺すべきでないか」
 サングラス越しの水上の瞳は全てを見透かしているようで、千夜は何も言えなくなった。
「可愛いな」
 彼は革手袋を取ってジャケットのポケットに入れると、千夜のブレザーのボタンを、更にブラウスのボタンを外していく。
「や、やめてください」
 辛うじて絞り出した声は蚊の鳴くようなもので、水上は気に留めない。
 ピンク色のブラジャーに包まれた豊満な乳房が露わになる。
「可愛いブラだな、似合ってる」
 そう言いつつ、水上はブラジャーをずり下げた。
「ひゃっ!」
 瑞々しい二つの果実がぷるんと揺れて外気に晒されたため、千夜は悲鳴を上げた。
「でかい乳してんなあ」
 じっと見つめられて、千夜はぞっとした。
 ようやく、彼が本気で自分を犯す気だと悟ったのだ。
「や、やだ……」
 震える声で、拒絶の意を示す。
 しかし水上は笑って、
「大丈夫、気持ち良くしてやるから」
 と、言うと千夜の背を壁に押し付けた。そして大きな手で乳房を包む。
「ひあ……っ!」
 千夜は小さく悲鳴を上げた。
 水上の節くれだった指が、やわやわと双球を揉みしだいた。
「ふ、うう……」
 じわりとした快楽が体に広がっていき、頭がぼんやりしていく。
「千夜の乳、揉み心地最高だ。柔らかいのに弾力もあって……」
 水上はそう言いながら、乳房を責め立てる。
「や、いや……」
 千夜は羞恥から首を振った。
 ――男の人に触られるの初めてなのに、感じちゃう……。
「本当に、いやか?」
 水上の指が、千夜の胸の突起を摘んだ。
「ひゃうっ!」
 穏やかな快楽とは一変、背筋に快感の電流が走り、千夜の体がびくりと跳ねた。
「乳首、弱いんだな」
「そ、そんなこと、ないです」
 千夜は怯えながらも水上を睨み付けた。
「くく、なかなか気丈だな。でも、気持ちいいだろ?」
 水上の指がくにくにと乳首を責めると、千夜の目に涙が溢れる。
「は……、乳首、いや……」
「凄く気持ち良さそうな顔をしてるぜ?」
「ちが……、んっ!」
 千夜の胸の突起は勃ち上がり、硬くなっていた。
 その事実に、千夜は絶句した。
「感度も最高、か」
 きゅっと強く摘まれ、千夜の体が大きく跳ねる。
「も、や……」
 千夜は背中を壁に預けたまま、ずるずると座り込んだ。
「力が抜けるほど気持ち良かったのか?」
 そう尋ねられ、千夜は首をふるふると横に振る。
「じゃあ、もっと気持ちいいことしようぜ」
 水上は千夜の足首を掴むと、自らの肩に掛けた。
「や、やだっ!」
 ブラジャーと揃いになったピンクのパンティが露わになって、千夜は泣き声を上げる。
 水上はそれを無視してパンティ越しにじわりと濡れた股間に触れた。
「パンツまで濡れてる。やっぱり感じてたんじゃねえか」
「言わないでください……」
 ――もうやだ、恥ずかしい……。
 千夜は奥歯を噛み締め、涙を零した。
 そんな千夜を見て微笑んだ水上は、ぷっくりと膨らんでいる肉芽を布越しに押さえた。
「そ、そこは!」
「クリトリス、勃起してる」
 人差し指でぐりぐりと刺激され、千夜は声にならない悲鳴を上げた。
「たっぷり濡れるよう、気持ち良くするからな」
 水上の笑みが、悪魔のそれに見えた。
 千夜は体を小刻みに震わせ、快感に耐えようとする。
 だが、水上はそれを許さない。人差し指を大きく動かし、千夜には過ぎた快楽を強制的に与えた。
「んひっ! ひいいんっ!」
 千夜の悲鳴は裏返り、体がビクンと強張る。
 肉芽を刺激されて達したのだ。
 水上はそれを確認すると、するりとパンティを脱がせた。
 とろり、と膣から愛液が溢れ出す。
「かなり感じたみてえだな」
「はあ……、も、むり……」
 千夜はとろんとした表情で尚も抵抗の言葉を吐く。
「ここからが本番なんだぜ?」
 水上は千夜の足を肩に掛けたまま、ポケットから透明な液体の入った小瓶を取り出した。
「な、に……?」
 千夜は荒い息をつきながらそれを見つめた。
「媚薬」
「び、やく……?」
 本で読んだことがある。千夜の媚薬のイメージは、どんな淑女でも淫乱に変えてしまう魔法の薬というものだった。
「いや、そんなの、使わないでえ……」
 恐怖が千夜を支配する。
 ――淫乱に、なりたくない!
 だが水上はそれを自らの指に垂らすと、人差し指をサーモンピンクの割れ目に挿入した。「ひいいんっ!」
 激しい快感が千夜を襲う。
 水上の指が触れたところ――いや、媚薬が付着したところが燃えるように熱い。
「や、怖い、怖いのお!」
 千夜は身を捩るが、拘束が解けることはなかった。
「大丈夫、怖くねえよ」
 水上は子供に言い聞かせるように優しく囁き、膣の形を確かめるように指をぐるりと動かす。
「ああああっ!」
 それだけで、千夜はビクンビクンと体を跳ねさせた。
「中、媚薬と愛液でぐちょぐちょだ。――お前、処女だよな?」
「は、はひ……」
 千夜が質問の意図をよく考えずに肯定する。
「じゃあ、俺が千夜の初めての男になるわけだ」
 水上の嬉しそうな言葉に、千夜の赤かった顔が青褪めた。
「い、いやっ! こんな初めて、いやあっ!」
 泣き叫んでも媚薬を塗りたくられた膣内は熱く、この熱の発散を望んでいる。
 水上は指をもう一本差し入れると、ばらばらと動かした。
「いひっ! あああっ! なか、ぐちゅぐちゅしないれえっ!」
 千夜は涎を垂らし、体を震わせる。
「しっかり広げておかねえと……。まあ、これくらいか」
 水上はそう言うと、ズボンのチャックを下ろした。
 そして、勃起したイチモツを取り出す。
「ひ……」
 大きく黒いグロテスクなそれ。千夜は初めて見る巨大な男性器に怯えた。
「処女膜を破る時は痛いかもしれねえが、我慢してくれよ」
 水上は千夜に微笑みかけ、ペニスを膣口に押し当てる。
「いや、いやいやいやあっ!」
 千夜の叫びも虚しく、挿入が始まる。
「ひぎいいいいいっ!」
 ぬぷんっと入ってきたそれは、指などとは全く違う。
 感じやすくなった膣壁を擦りながら、指では届かないようなところまで進んでいく。
「ひい、い……」
 千夜は体をガタガタと震わせ、瞳をギュッと閉じた。
「これが処女膜かー?」
 その言葉に、これから痛みがくるのだと覚悟する。
「いくぜ」
「う、ううう……」
 ――嫌だけど、もうどうにもならないんだ……。
 ブチン、と何かが切れたような感覚がした。
「やあああっ!」
 膜を破られた痛みに、千夜は悲痛な悲鳴を上げた。
 だがそれは一瞬のこと、媚薬のためかすぐに快感に変わる。
「はっ、はっ、おちんちん擦れたとこ、熱いい……!」
「くく、処女喪失したばっかりなのに、感じちまって」
 水上は小さく笑うと腰を動かし始めた。
「ひぎいいいいっ!」
 巨根が子宮口をこじ開ける。
「し、子宮まで、おちんちんきてるうっ!」
「気持ちいい?」
「き、きもちい……、くないっ!」
 それでも千夜は堕ちまいと、感じていることを否定する。
 しかし蕩けた表情を見れば、感じているのは一目瞭然だ。
「そんなえっちな顔して、もっと欲しいのか?」
 水上はずるりと膣口ギリギリまで抜くと、一気に奥まで挿入する。
「んっひいいいいいっ!」
 千夜は背中を逸らし、目を見開く。
「気持ちいいって認めてみろよ」
「いやっ、いやなのお! 怖いいっ!」
 思考が快楽に塗り潰されていくのが、恐ろしかった。
 媚薬と水上の男根は、充分にその役目を果たしている。
「ううっ、うー! もう、抜いて、くださ……、おほおおおおっ!」
 荒々しいピストン運動が始まり、千夜はみっともない声を上げた。
「お前の中が熱くて気持ちいいから、俺も我慢できなくなってきた」
 水上はどこか余裕のない表情を浮かべ、腰を打ち付ける。
「おおおっ! 子宮ノックしないれえええっ! 感じてるっ! 感じてましゅかりゃあああっ!」
 半ば白目をむき、千夜はようやく快楽を訴える。
「良かった。じゃあ、もっと気持ち良くなってくれ」
 ピストン運動が更に激しくなり、千夜は膣内が焼けているのではないかと錯覚する。
「中に、出すぜ!」
「はっ、はひいいいっ!」
 水上が何を言っているのかよく分からないまま、千夜は自らも腰を揺らす。
「イクッ!」
 水上は子宮口にぐりっとペニスの先端を押し付けた。
「んほおおおおっ! 子宮犯されりゅううううっ!」
 子宮内に、水上の精液が勢いよく流れ込む。
「あひいいいっ! 熱いの、きてるううううっ!」
 千夜は叫び、体を痙攣させた。
「まだ、出てる……」
 水上は最後の一滴まで千夜の子宮に注ぎ込もうと、腰を押し付ける。
「し、子宮、パンパンになってりゅ……、も、らめ……」
 千夜の体からガクリと力が抜ける。過ぎた快楽に意識を失ったのだ。

「ん……」
 カーテンから漏れる朝日を感じ、千夜は目を覚ました。
 千夜は自分の寝室で、ベッドに寝ていた。
 そこで、ハッとする。
 ――あれは、夢だったんだ!
 しかし、ガバッと起き上がると腰に痛みが走った。
 しかも、布団をめくってみると自分は一糸纏わぬ状態だ。
「夢、じゃない……」
 千夜が混乱していると、
「ああ、起きたか?」
 と、ドアが開く。
 彼女の処女を奪った男、水上が――殺人鬼が、何故かエプロン姿で千夜に声をかける。
 千夜は「ひっ」と声を上げ、体に布団を巻き付けた。
「体の調子はどうだ? やっぱりあそこ痛いか?」
「う、うるさいです! というか、何でまだいるんですか!」
 千夜は顔を赤く染め、怒鳴る。
 水上は肩を竦めて笑った。
「ヤリ逃げされたかったのか? 俺はそんな薄情な男じゃねえよ」
 この男が薄情だろうが何だろうが知ったことではない。
 問題はただ一つ、殺人鬼であり強姦魔でもある男が平然と部屋にいることだ。
「とりあえずシャワーでも浴びてこいよ。もうすぐ朝飯ができっから」
「朝飯って……」
「男の一人暮らしだと、家事が得意になる」
 そこで千夜の腹が、くーっと可愛らしい音を立てた。
「う……」
 そういえば、先程からハムや玉子の良い香りがする。それに刺激されたのか、空腹を感じた。
「あ、バスルームまで一人で行けねえなら肩貸すぜ?」
「結構です」
 千夜は布団を体に巻き付けたままなんとか立ち上がると、ズルズルと裾を引きずりながらバスルームに向かった。
 熱いシャワーを頭から浴びると、完全に目が覚める。
 それと同時に、昨日の記憶が鮮明に蘇る。
 胸を揉まれ、下半身を触られ、そして……。
 千夜はスポンジで強く体を擦った。
 ――汚された、なんて絶望するような性格じゃないけど……。
 やはり屈辱で、ある程度の喪失感もある。
 とはいえ、体の痛みはそれほど酷くはない。生理周期から考えて、危険日ではなかったはずだ。
 ――それなら、犬に噛まれたと思って忘れるのが得策か。
 そう考えて息をついたところで、曇りガラスの向こうから、
「制服と下着、それとタオル置いとくからな」
 と、水上の声がした。
 ――犬っていうより狼か……。
 千夜は眉間に皺を寄せた。

 シャワーを浴び終え、制服に着替えた千夜はネクタイを締めながらリビングに入った。
 ダイニングキッチンでは、水上が皿にハムエッグを盛っている。
 千夜は何も言わずにダイニングテーブルにつく。
 水上も朝食を手に、千夜の向かい側に座った。
 不思議と昨日ほどの恐怖は感じなかった。
 それどころか、千夜は「いただきます」と手を合わせてそんな殺人鬼が作った料理を口に運ぶ。
「あ、おいしいです」
「だろ?」
 水上は嬉しそうに微笑んだ。
 ――怖くないのは、仲間だから?
 水上が言った言葉を千夜は忘れていない。
 そんな彼女の気持ちを見透かしたかのように水上は、
「俺たちは殺意で結ばれた仲間だ」
 と、言った。
「仲間、ですか」
「ああ、もう否定しないんだな」
「まあ……」
 よく見る悪夢を思い出すと、否定はし切れない。
「それでいい。自分の中の闇からも目を逸らしていたら、自覚しないまま飲まれるからな。闇に、殺意に」
「はあ、そうですか」
 千夜はできるだけ冷静に、その言葉を受け止める。
「あ、そうそう、一つ頼みがあるんだよ」
 水上は頭を掻き、続けた。
「俺の濡れ衣を晴らしてくれねえか?」
「濡れ衣……?」
「そう、お前のクラスメート、香川弓子殺しの濡れ衣をな」
 千夜はその名前にピクリと反応する。
「まだ発表はされてねえが、警察はあの事件も俺がやったと思ってる。なんせ手口が似てるからな。喉を裂かれた後、腹を滅茶苦茶に……」
 千夜は想像して気分が悪くなった。水上もそれを察したのか、「悪い悪い」と謝罪する。
「でも、俺はそいつに関しちゃ無関係なんだよ。俺が殺すのは売春してる女だけだ。現代の切り裂きジャックの名は伊達じゃねえ」
「何で、私に頼むんですか? 私は、貴方に犯されても何もできない、ただの女子高生ですよ……」
「そうだな、お前が俺のことを通報しなかったのと同じじゃねえか?」
「え?」
「事件を解決したお前が、どうなるのか見たい」
 しれっとそう言われても納得がいかない。
 この男の濡れ衣を晴らしたいとも思わない。
 だが、千夜は頷き、水上の目を真っ直ぐに見つめた。
「分かりました、やります」
「助かるよ。――じゃあ、俺はそろそろ行くぜ。あんまりのんびりもしていられねえからな」
 水上は朝食の残りを平らげると、立ち上がった。
「見送りはいいからな」
「するつもりないですから」
「そうかよ」
 苦笑した水上がリビングを後にする。
 玄関のドアが閉まる音を聞き、千夜は息をついた。
 ただ、理由が知りたい。
 彼女が死んだ、理由が。
 それがただの好奇心なのか、また別のものなのか、まだ自分でも分からなかった。



第二章
 翌朝の教室は、昨日とは違った意味でざわついていた。
「香川、妊娠してたんだって」
 そんな話が耳に入り、千夜は溜め息をついた。
「おはよ、なんか変な噂が広まってない?」
「あー、なんか一年のやつが産婦人科に入っていく香川を見たらしいぜ」
「でも、全然驚いてない辺り千夜も知ってたんじゃないのか?」
 と、秋葉が問いかける。
「お通夜の後、香川さんのご両親が話してるの聞いた」
「じゃあマジなんだな」
 高石は「うーん」と腕を組む。
「犯人は二人殺したようなもんだよな、ひでえ話」
「でも、高校生で妊娠かー」
「今回の事件も切り裂きジャック――じゃなかった、切り裂き権兵衛のしわざなのか?」
「わざわざ言い直さなくていいって、高石」
「違う」
 千夜は思わず断言してしまい、取り繕うように付け加えた。
「と、思う」
 キョトンとしている二人に対して、
「ほら、売春とかしてそうにないタイプだったし」
 と言った。
「ま、確かにそうだな」
「しかし千夜にしては珍しいな。お前、基本的に他人には興味ないのに」
 秋葉に言われ、千夜は苦笑する。
「ま、こういうこともあるさ」
 そして、ふと思った。
 ――情報収集なら、『あそこ』が一番かな。

 放課後、漫画研究部にやって来た千夜。
 コンコンとノックをすると、「やばい、隠して!」という声の後に「はーい」と返事が返ってくる。
 ――何を隠してるんだか。
 千夜は苦笑し、ドアを開けた。アニメのポスターが貼られた部室で三人の女子生徒がこちらを向く。
「やあ、元気?」
「あ、海戸せんぱーい! どうしたんですか?」
 茶色の髪をショートツインにした美少女が嬉しそうに立ち上がる。
「安本さんたちにちょっと訊きたいことがあってね」
「はい! この安本るる、海戸先輩のためなら何でも答えちゃいますよ!」
 彼女は敬礼をし、ショートカットの黒髪が似合う山里瞳はやれやれと肩を竦めた。
「先輩は何が知りたいんですか?」
「殺された香川さんのこと。わけあって真相を知りたくてね。君らって二年生だけど、この学校の生徒のことに一番詳しいでしょ?」
「そ、そんなことないです……」
 佐川リナは金色のウェーブしたロングヘアを揺らす。
「三年一組のファイルってどこだっけ、瞳ー」
「もー、ほんとは外部に漏らしちゃダメなんだよ。あくまであたしたちのネタ用なんだから」
 ネタ用という言葉はあえて気にせず、千夜は本棚にずらりと並んだファイルから一冊を取り出したるるに問いかける。
「彼女の交友関係とかは?」
「えっと、クラスに友達とかはいなかったみたいですよ」
 千夜は納得する。クラスメートたちの他人事のような反応はそのせいだったのだろう。
「クラス外には?」
「香川先輩は図書委員だったから、その絡みはあるみたいですね。三年五組の多田先輩が香川先輩に告白したとかなんとか」
「告白? 結果は?」
「玉砕ですよー。好きな人がいるからって断られたらしいです」
「ふむ」
 千夜は頷く。
「あ、あの、あと……」
 リナがおずおずと口を開く。
「生物室によく通ってたみたいです……。きっと生物が好きだったんですね……」
「生物が好きとは限らないわよ?」
 るるがにっと笑う。
「生物教師が好きだったって可能性はあるわね。国本とか趣味悪過ぎだけど」
 瞳が呆れたように言い放つ。
 生物教師、国本忠司の授業は千夜も受けている。どこか暗い感じのある中年男性で、あまり生徒に好かれている様子はない。
「あたしたちが知ってるのはこれくらいですね」
「そっか、ありがとう。ちなみに彼女は妊娠してたわけだけど、心当たりとかある?」
「いやー、さすがにそれは。でも……」
 るるは言葉を切った。
「売春してたって話は聞いたことないから、恋人とかそういう相手の子供なんじゃないですか?」
「なるほど、ありがとう」
「いいですよ、お礼なんて。体で払ってもらいますから!」
 るるの目がキラキラと輝き、その千夜が手を掴む。
「ん?」
「そろそろ進展してもいいと思うんです、あたしたち」
「し、進展って」
 千夜は口元を引きつらせ、
「あのさ、食堂でアイス奢ってあげるよ。もちろん三人にね!」
 と、瞳とリナの方に助けを求めるような視線を向けた。
「あたしは先輩が食べたいです!」
「いや、二人は……?」
「ま、るるの漫画の原動力って海戸先輩だしね」
「も、もうすぐ、イベントの締切なんです……っ」
 瞳はさらっと言いのけ、リナは申し訳なさそうに頭を下げる。
「え?」
「じゃあ、あたしたちは食堂でアイス食べてくるから、終わったらメールして」
「おっけー!」
「が、頑張ってね! るるちゃん」
「ちょっと待って、何を頑張るのさ!」
 千夜の問いには答えず、二人は出て行ってしまった。
「さあ、二人きりですよ、先輩……」
 るるは千夜を壁に追い詰めると、豊満なバストに自らの顔を押し付けた。
「んー、先輩ってやっぱりいい匂い! おっぱいもおっきくて柔らかいし!」
「き、君ね、女子高生の発言じゃなくなってるよ?」
「先輩可愛いです!」
「聞いてないな」
 千夜は「はあ」と溜め息をついた。
 ――まあ、情報もらったのは確かだし、同性だし、いいか……。
 昨日の一件のせいで、性的なことに多少は免疫がついた。トラウマになるほど千夜の精神はヤワではない。
「仕方ないなあ。何がしたいの……って、もうしてるし!」
 るるは千夜の許しなど待たず、ブレザーのボタンと赤いネクタイを外していた。
「ちょっと、ちょっとだけ待とう! さすがに心の準備ができてない!」
「やです! 今までずっと待ってたんですよ?」
 そう言って真剣な顔で見つめられると、千夜も抵抗できなくなってしまう。
 元々押しに弱いうえ、相手は一応仮にも可愛い後輩だ。
 ――うん、殺人鬼よりはずっとマシ!
 るるの女らしい手が千夜のブラウスのボタンを震える手で解いていく。
 ――そうそう、昨日の水上さんの強引な手付きに比べれば! 震えてるし可愛いもんだよ!
「はあ、はあ……。か、海戸先輩のおっぱいがもうすぐ私の手に……。あああ、興奮して手が震える……」
「ごめん、引いた」
「いいですよ! ドン引きしてる先輩とかレアでアリです!」
「戻ってきて、二人とも!」
「ふふふ、大声を出しても無駄ですよ。それに、おっぱい触ったり揉んだり舐めたり吸ったり抓ったりするだけですから、大丈夫です!」
「どれだけおっぱい好きなの! 大丈夫な気がしないんだけど!」
「先輩のおっぱいが好きなんですよー!」
 お互い必死になっていた。千夜よりるるの力の方が圧倒的に強く、ブラウスは脱がされブラジャーは下にずり下げられる。
 ぷるんっと大きく柔らかな乳房が飛び出し、千夜は「ひゃあっ!」と声を上げた。
 白い巨乳の中心に、色は薄いがやや大きな乳輪。乳首はまだ勃起してはいない。
「これが、海戸先輩のおっぱい……」
 るるはうっとりとした様子でそれを見つめた。
「も、もう見たし、いいよね?」
 千夜は羞恥心になんとか耐え、胸ではなく顔を隠す。
 ――後輩相手に、こんな赤くなった顔、見せられない……。
 女同士だと腹を括っていたものの、やはり恥ずかしさは変わらない。
「まだまだですよ、先輩! ちょ、ちょっとでいいから、揺らしてください!」
「ええ……。うう……」
 千夜は顔を隠したまま軽く上半身を揺すった。
 晴常高校一大きなバストは、そんな軽い振動でもぽよんぽよんと大きく跳ねる。
「はああ、先輩のおっぱい、こんなに大きくて、柔らかそうで……」
 るるの理性はそこで崩壊した。
「とにかく! まずは揉みますから!」
 小さな手が、千夜のグレープフルーツほどある乳房に埋まる。
「わああっ! だ、だめだってば!」
「触ったり揉んだり舐めたり吸ったり抓ったりするって、宣言しましたからね! 有言実行するタイプですからね、あたし!」
「ひゃああっ!」
 胸を揉む手は小さく女らしい。水上と比べて力も弱い。
 それ故のもどかしさが、あのときとはまた違った快楽を生み出す。
 じわりじわりと、ゆっくり染み込んでいくような甘い痺れ。
「はあ……、ら、らめえ……」
「先輩、感じてくれてます?」
「ちが……、違う……っ」
 千夜は何も見たくないと言いたげに視界を両手で塞ぎ、首を横に振る。
「んあ……、なんか、むずむず、して……。感じてるわけじゃ、ないのお……」
「男なんかじゃ満足できないように、女らしい愛撫をしてあげますね。男はみんながっついて、痛いくらいに揉んじゃうでしょうし」
「や、やあ……」
 るるの指が蠢き、繊細な快楽を刻み込んでいく。
 虫が這っているような感覚と言えば聞こえは悪いが、それは優しく美しい幼虫だ。
「はあ、あ、あ……」
 ――理性が、溶けていくみたい……。
 禁断の果実はどうしてこうも甘いのか。
 千夜の表情がとろんとしたものになっていく。
 ――私たちは女同士で、ここは学校で、いけないことのはずなのに……。
 そう、女同士なのだ。
 そこで千夜の意識はハッと覚醒する。
 ――香川さんは、あのキスに何を込めたんだ……。
「ごめん!」
 千夜はるるの手首を掴み、乳房から離させた。
「きょ、今日はこれで充分でしょ? また、機会があったらってことでさ」
 なんとか笑顔を作り服を直すと、るるは「あはは」と笑った。
「そうですね。ここまでにしましょ。――今日は」
 『今日は』の部分を随分強調された気がするが、千夜は気にしないことにした。
 そして呼吸を整え、「じゃあね」と手を振り部室を出た。
「とりあえずは図書委員の多田君、それと国本先生、か」

 千夜は図書室にやってきた。
 カウンターに座っているのは二人、男子生徒と二年であることを表す黄色のネクタイをした女子生徒だ。
 千夜はすたすたと歩み寄ると、声を落として尋ねた。
「多田君いる?」
 男子生徒が溜め息をつき、「俺だけど」と答える。
「俺が多田浩太。何の用だ?」
「香川さんのことについて訊きたいんだけど」
「またですかあ?」
 隣に座っていた女子生徒が、嫌悪感を剥き出しにして唸る。
「え、なになに? またってどういうこと? というか、君は?」
 女子生徒の剣幕に驚き、千夜は一歩下がった。
「あたしは鈴原ルカです。もう十人目ですよ! 多田先輩にそのこと訊きに来たの!」
 眼鏡に三つ編みという地味な外見だが、なかなか気が強いらしい。彼女は腰に手を当てて立ち上がり、千夜を睨み付ける。
「多田先輩だって傷付いてるんですから、好奇心でそういうことを訊きに来るのはやめてもらえませんか!」
「まあまあ」
 多田の方が苦笑し、ルカを宥める。
「まあまあじゃないですよ、先輩! ムカつかないんですか?」
「まあまあ、図書室では静かに、ね?」
 千夜が人差し指を唇に当て、ニヤリと笑うと、ルカは更にきつく睨んだ。
「えっと、海戸だよな、三年一組の」
 多田に訊かれ、千夜は首を傾げる。
「そうだけど、何で知ってるの?」
「色んな意味で有名人だし、お前」
「へえ」
 あえて突っ込むことはせず、曖昧に笑った。
「お前はさ、好奇心とかで来たんじゃないんだろ? なんとなくだけど」
「うん、まあ。――多分」
「多分って何だよ」
 多田は「ははは」と笑うと、ルカの肩を叩いた。
「悪い、ちょっと出てくるから、しばらく一人で頼むわ」
「いいですけど……」
 ルカは釈然としない様子ながらも渋々頷く。
「どこで話す?」
「この時間なら食堂とか?」
「オーケー、手短に頼むな」
 二人は図書室を出る。ルカはその背中を見送ると、「もう!」と腕を組んだ。

 人がほとんどいない食堂で、二人は缶ジュースを手に話を始めた。
「香川さんに告白したって、ほんと?」
 直球だが、手短にと頼んだのは多田の方だ。千夜は問いかける。
 多田は気を悪くした様子もなく頷く。
「ああ、三ヶ月ぐらい前かな。図書室で誰もいなかったから、告白した。――ま、見事玉砕だったけどな。他に好きな人がいるからって」
「そっか」
 漫研の情報は確かだったらしい。
「好きな人が誰かは、言ってた?」
「いや、そこまでは。あ、でも……」
「うん?」
「きっと結ばれない相手だって、言ってた」
 多田は少し寂しそうに目を伏せる。
「なあ、あいつ、妊娠してたんだろ?」
「うん、そうらしいね」
「じゃあ、その好きな人とは結ばれたのかな? 誰の子供だったんだ……」
「さあ、私もそこまでは」
「十人目だって、鈴原が言ったよな」
「ん? ああ」
 多田が苦笑した。
「中にはさ、俺が父親じゃないかって言うやつもいるんだよ。玉砕したから、そのままレイプしたんじゃないかって」
 ルカがピリピリしていたのは、そんなことを言ってくる輩がいたかららしい。
「それは、酷いね」
「ま、そう思いたくなってもしゃーないよな。みんな動揺してんだよ」
 こうして話していると、彼はとても弓子を強姦するような人間には思えない。更に、人を殺せるようには見えなかった。
「じゃ、俺はそろそろ行くな。あいつ一人にしとくのも心配だし」
「ああ、うん。ありがとう」
 千夜はその背中を見送ると、多田の言葉を整理する。
「結ばれない相手、か」
 ――家族、同性、教師……。
「あのキスは、好意の証とかじゃないよな」
 結ばれない想い人に自分も当てはまる可能性はある。
 しかし、千夜は自分が弓子に想われる覚えがない。
 何より、彼女を妊娠されることなど不可能だ。
「キスして妊娠なんて、今時子供でも信じないよ」
 そして、問題はもう一つある。
 子供の父親と犯人が、同一人物なのか否かということだ。
「同じと考えるのも、ちょっと軽率か……」
 千夜は「うーん」と唸った。

 生物室は北校舎の二階にある。
 千夜は誰もいないその教室で、窓から見える中庭をぼんやりと見ていた。
「ここに、香川さんがよく出入りしてた、か」
 ――何のために?
 るるたちが言っていたように、国本に想いを寄せていたのだろうか?
 その時、生物室の戸が開く音がした。
「何をしてるんだ」
 はっと振り返ると、よれよれの白衣を着た冴えない中年教師、当の国本がどこか神経質そうな目で千夜を見つめていた。
「あ、先生。すみません、少しぼーっとしてました」
 教師からの信頼を得ている千夜だからか、国本は特に疑う様子もなく「そうか」と言った。
「そろそろ帰ったらどうかね。最近は物騒だ」
 そう言いながら、彼は生物室のカーテンを閉めていく。
「はい、そうします」
 千夜は微笑んで歩き出し、ふと足を止めた。
「香川さん」
 その名前を口に出すと、国本の動きがピタリと止まった。
「――が、よく生物室に出入りしてたって聞いたんですけど、彼女、生物が好きだったんですね」
 あえてとぼけたことを言って振り返り、国本の様子を伺う。
 どんな反応を見せるかと思ってしたことだったが、結果は意外なものだった。
 千夜の方を見た彼の目から、涙が一筋溢れた。
「え?」
「香川君……、いや、弓子の」
 国本はポケットから水色のハンカチを取り出し、目元を拭う。
「お腹の子の父親は、私かもしれない」
 その告白に、千夜は息を飲む。
「愛し合っていたんだ、私たちは」
「何で、それを私に?」
「君は口が軽いようには見えない。誰かに、知ってもらいたかったんだ。私と弓子の間に、愛が存在したことを」
「はあ……」
 それ以上踏み込むことができず、千夜は「失礼しました」と言って生物室を出た。
 どこか国本に、恐怖を感じたのだ。
 ――知ってもらいたかったって、何だよ……。
「愛し合っていたなら、殺す必要はない、か……?」
 そう考えると、子供の父親と弓子殺害の犯人は別ということになる。
 しかし、国本の言葉を丸々信じることもできなかった。
「そもそも、何で腹を裂いたんだ」
 それに関しては、思い付くことがいくつかあった。
 現代の切り裂きジャックの犯行に見せかけるため、とか。
 弓子のことが憎かったから、惨たらしく殺したかった、とか。
 ――あと、もう一つ……。
「いや、それはいくら何でも、狂ってる……」
 千夜は頭を振った。
 ――いけない、いけない……。
 殺人犯のことを考え過ぎて、侵食されそうだった。
 殺意は、伝染するのかもしれない。
「怖い……」
 自分の中の殺意が、暴走しそうになる。
「は、は……」
 千夜は踊り場で蹲った。
 まるで、あの時の弓子のようだ。
 ――殺したい。私も、殺したい。
「あの、男を……」
「千夜?」
 名前を呼ばれ、はっと顔を上げる。
「どうしたんだ、気分悪いのか?」
 高石が、心配そうに千夜の顔を覗き込んだ。
「いや……、大丈夫」
 不快な感覚が収まっていき、千夜は息をついた。
「君こそ、どうしたの?」
 少し無理にだが、笑ってみせる。
「いや、部活終わったからお前を探してたんだ。こっち来たって聞いたし」
 高石は照れたように頬を掻く。
「後輩が、行けなくなったからって水族館のチケットくれてさ、二枚。それで、日曜日に一緒に行かないかと思って」
「水族館?」
 前に話したことがある。海の生き物が好きだと。
 千夜はどこか小悪魔的な笑みを浮かべた。
「それは、デートのお誘いかな?」
「ち、違う!」
 真っ赤になる高石を見て、千夜は「ふふふ」と声を上げた。
「じゃあ是非、エスコートしてもらおうか」



第三章
 日曜日、電車で一駅のところにある水族館で高石は待っていた。
「やあ、高石君」
 時間ぴったりにやってきた千夜はニットワンピにタイツ、そしてキャスケットという格好。
 いつもの制服とは違うその姿に、高石は鼓動が高鳴るのを感じた。
「お、おう」
「待った?」
「いや、今来たところだ」
 実際は三十分前についていたのである。
「そっか、じゃあ入ろうか」
 中に入ると、最初に大小様々な魚が泳ぐ大水槽がある。
 薄暗い館内で青い光を放つ水槽は、神秘的な雰囲気を醸し出していた。
「これ好きなんだよね。凄くきれい!」
 千夜はそれを見ると目を輝かせる。
「ああ、きれいだよな」
「鮫もいるよ、おっきいねー」
 子供のようにはしゃぐ千夜に、高石は小さく笑ってしまう。。
「次はクラゲ見たいなー」
 千夜は館内の奥にあるクラゲのコーナーへと駆けていく。
「おーい、走んなって」
「はーい」
 千夜はキャスケットを押さえ、くるりと高石の方を振り返った。
 その後ろには光の中を揺らめくクラゲがいて、どこか不思議な光景に高石は不安になった。
 まるで千夜が、同じ次元の生き物ではないようで。
 このまま、自分の前から姿を消してしまいそうで……。
「あ、そうだ、不死のクラゲもいるんだよね」
「え?」
 高石は問いかけられて我に返る。
「ベニクラゲってやつ。年取っては若返っての繰り返しで、死なないんだって」
 そう言いながらクラゲの水槽を見て回る千夜の博識っぷりに、高石は感嘆の声を上げる。
「お前って色々知ってるよな。どこで覚えてくるんだ?」
「本読んでたら覚えてた」
 そんな時、後ろから「あっ」と声がした。
「ん?」
 聞き覚えのある声に千夜が振り返ると、ルカがこちらを見ている。
 眼鏡はそのままだが、解かれた長い黒髪がウェーブしている。花柄のワンピースが似合っており、学校で会った時と違う印象だ。
「誰?」
「図書委員の子」
「鈴村ルカです」
 ルカはじっとりとした目で二人を見る。
「デートですか? 先輩たちは」
「えっ!」
 高石は慌てるが、千夜は「ははは」と笑う。
「違うよ、彼は友達。君こそデートじゃないの? お洒落してるし」
「私の隣に誰か見えますか?」
「いや、相手がお手洗いにでも行ってるのかと」
「私は一人で来たんです」
 その態度から察するに、誰かと来ようとしたが断られたとかであろうか、と千夜は推理する。
「あの、海戸先輩」
 ルカは真剣な表情で千夜を見る。
「デート中申し訳ないんですが」
「デートじゃないって」
「ちょっと、いいですか?」
 尋ねられ、千夜はちらりと高石の方を向いた。
 彼は察したように腹を押さえると、
「俺、腹痛くなってきたからトイレに行ってくる!」
 と、駆け出していった。
 ――空気読めるなあ……。
 千夜は肩を竦め、「どうしたの?」と尋ねた。
「海戸先輩は、何のために香川先輩のことを調べてるんですか?」
「あー、そうだね。ある人に頼まれて、とか?」
 そう言いながら、ルカの鋭い視線から目を逸らす。
「自分の意思じゃ、ないんですか?」
「うーん、まあ」
 千夜が取り繕うように苦笑すると、ルカは苛立ったように拳を握り締めた。
「香川先輩は、貴女に憧れてました」
「え?」
「海戸先輩の貸し出しカードを見て、凄いって言ってたんです」
 週に三回ほど図書室で本を借りているが、自分は何か特別なことをしただろうかと首を傾げる。
「海戸さんはこんな難しい本をハイペースで読んでて凄いとか、かっこいいとか、言ってました」
 千夜はどう返していいのか分からなかった。
 ――だから私に、何て言えっていうんだ。
 その言葉を飲み込んで、千夜は「そっか」とだけ言った。
「先輩が自分の意思で犯人探しをしてくれてるのかなって、私、ほんとは少しだけ嬉しかったんです。――でも、人に頼まれたからだったんですね」
 ルカは肩を落とし、
「香川先輩が、かわいそう」
 と、言ってから首を振った。
「すみません、先輩を責めるつもりはなかったんです」
「いいよ、気にしないで」
「わ、私、もう行きます。デートの邪魔をしてすみませんでした」
 ルカはワンピースの裾を翻し、駆けていった。
「デートじゃないのに」
 千夜は頬を掻き、溜め息をついた。
 ――憧れてたって言われても……。
「そんな人間じゃないよ、私は」
「もう話、終わったか?」
 その声に振り返る。高石が戻ってきたのだ。
「ああ、うん。終わったよ」
「そっか」
 高石は「あ、これ」と言って売店の小袋を千夜に渡す。
「ん、なに?」
「いや、クラゲ好きみてえだし」
 開けてみると、クラゲのキーホルダーが入っていた。プラスチック製で青く透き通っており、千夜好みのものだ。
「君も、こういうテクニック持ってたんだね」
「は?」
「いや、ありがとう。大事にするよ」

 千夜は微笑み、それをバッグに付けた。
 その後はペンギンを見たりイルカショーを見たり、と楽しい時を過ごした。
 その後はペンギンを見たりイルカショーを見たり、と本当にデートのような時間を過ごした。
 そして千夜は、夕方の帰り道を歩いていた。
 夕方の街は夜とは違う淋しさを感じさせた。
「帰ったら一人かー、つまんないなー」
 小さく呟く。
「それなら、俺と一緒にドライブでもするか?」
 その声に、はっと車道を見る。
 黒い軽自動車の窓から、水上が顔を出していた。
「結構です」
 殺人鬼の車に乗るなど、さすがの千夜も恐ろしくてできない。
「そうかい。じゃあ、とりあえずこれだけ」
 彼は大判の封筒を千夜に手渡す。
「何ですか?」
「俺なりに調べた、香川弓子のことをまとめといた」
「香川さんの……」
「ああ、ヒントになりゃあいいと思ってな」
「あ、ありがとうございます」
 千夜は一応礼を言うと、パラパラと中の書類を確かめた。
「へえ、香川さんって中高一貫校に通ってたんだ。何でそれがわざわざうちの高校に……」
 そこには、弓子が中学時代に起こした『問題行動』について書かれていた。
「そうか、それで……」
 ――死んでまで迷惑をかけて、だったのか……。

 その夜、千夜は夢を見た。
 じっとこちらを見ている少女がいる。
 ――香川さんだ。
 千夜はどこか後ろめたくて目を逸らした。
 ――私は、水上さんに頼まれて犯人探しをしてるだけなのに。
 それでも弓子は、ただ千夜を見つめている。
 ――香川さんがかわいそう、か……。
 ルカの言葉を思い出す。
「あんまりさあ、見ないでよ。私は君のために何かしてるわけじゃないんだ」
 突き放すような言葉を口にして、千夜は頭を掻いた。
「誰かのために、何かできるような人間じゃあないんだよ……」
 でも……。
 ――目を、逸らしてはいけない。
 水上はそう言った。闇に、飲まれると。
 そう、この弓子は千夜の中にある闇だ。
 目を逸らしたら、自覚しないまま闇に飲まれる。
 千夜は弓子に目をやった。
 きっと、助けを求めている人間はこういう目をするのだろう。
 ――あの時のキスは……。
 やっと、気付けた。
 ――君は、私に……。
 千夜は拳を握り締めた。
「大丈夫、この事件は、私が解決するから」

 月曜日の放課後、生物室での授業が終わると千夜は平静を装って立ち上がった。
 これから自分はきっと恐ろしいものを見ることになるのだろうと思いながら。
「あ、千夜」
 高石の声に振り返る。
「ん、何?」
「教室、戻らねえの? 荷物置いてきてるだろ」
 千夜はにっこりと笑った。
「先生に質問があるから、先に戻ってて」
「おう」
 生物室から生徒たちが出て行くと、千夜は教卓で教科書などをまとめている国本に声をかけた。
「先生、あの……」
「何かね」
「先日使っていたハンカチを返してください。あれは私が香川さんに貸したものです」
 国本は一瞬固まった。
 だが、ぎこちない笑顔を浮かべ、ポケットからハンカチを取り出す。
「ああ、君のだったのか。弓子に借りていてね……」
 千夜はそれを受け取り、息をついた。
「先生が香川さんと愛し合っていたというのは、嘘ですよね」
 国本の顔が、歪む。
「何を言っているんだ、私たちは確かに愛し合っていたんだよ。その証拠に……」
「香川さんは、同性愛者だったんです」
 千夜はそのまま言葉を続けた。
「中学時代、校内で女子生徒とキスしていたのを教師が見付けて、問題になったそうです」
「それは、中学生の時のことだろう。高校生にもなれば、それが間違いだったと分かる」
「同性愛を間違いと言っていいのかは知りませんが、彼女は私にキスをしました。それが、彼女が今も女性を愛している証拠です。愛し合っていたというのは、先生の嘘か妄想……」
 国本は千夜の腕を掴んだ。そして引きずるように準備室へ押し込む。
「わっ!」
 床に尻餅をついた千夜を見下ろす国本。
「君に見せてあげよう。私と弓子の愛の結晶を」
 準備室にはホルマリン漬けの生物標本が置いてある。
 国本はその一つを取ると、千夜に見えるよう目の高さに下げた。
 ――胎児だ……。
 千夜の予想は当たっていた。彼が弓子の腹を裂いたのは、胎児を取り出すためだったのだ。
「この子が、私と弓子の愛の証だ!」
 国本は狂ったように笑う。
「彼女はこの子を堕ろすと言ったから殺した。そして、この子を『保存』した。――いやいや、しかし何故彼女が私を拒んだのかと思ったが、そうか、君が彼女を、唆したのか」
「唆した?」
 千夜は国本を睨み付ける。
「彼女は、助けを求めていたんです! 貴方に犯されて妊娠しても、両親には言えない。一人で抱え込んで……、それが、あのキスだったんだ」
 今思えば、弓子はすがるような目をしていた。助けを求めていたのだ、他ならぬ自分が憧憬を覚えた千夜に。
「それこそ、妄想だ!」
「確かに、私の想像です。でも、貴方が香川さんを殺したのは、紛れもない事実です」
 千夜はポケットからスマートフォンを取り出した。それは録音状態になっている。
「確かに言いましたよね、殺したと」
「この……」
 国本はホルマリン漬けを置くと、千夜の胸倉を掴んだ。
「きゃっ!」
「千夜!」
 準備室のドアが開く。
 入ってきた高石が、国本を千夜から引き離すと投げ飛ばした。
「うっ」
 国本は棚に体を打ち付け、呻き声を上げる。
 高石は千夜の手を掴んだ。
「大丈夫か!」
「うん、ありがと」
 千夜は微笑む。
「一人でこんなことしたら危ないだろ!」
「うう……、私と、弓子は……」
 国本の声に、はっとする二人。
 だが、彼は項垂れたままただ呟く。
「愛し合っていたんだ。弓子は私に微笑みかけて、訊いたんだ。愛とは何かと……。それは、私に愛情を教えてほしかったからだろう……」
「ええ、教えて欲しかったんでしょうね。生物学的に、自分が抱く愛は間違っているのか」
 千夜は、答えた。

 その後、警察に連絡した千夜は署で話を聞かれた。
 彼女はただ、見て聞いたことを話した。――水上のこと以外。
 千夜が解放された時、外は暗くなりかけていた。高石も別室で話を聞かれていたが、さすがに千夜ほど長くはかからず、一旦学校に寄って帰るとメールがあった。
「やれやれ、図らずも名探偵になっちゃったよ」
 千夜が一人で呟き、警察署を出ると一台の車が止まった。
「よお、家まで送るぜ?」
「お願いします」
 疲れていた千夜は、殺人鬼の申し出を断らなかった。
「でも、大丈夫なんですか? 現代の切り裂きジャックがこんなところに来て」
「証拠とか残してねえから」
「それならいいんですけど」
 水上は運転をしながら話し始める。
「事件を解決した気分はどうだ?」
「不思議な感じです。まるで……」
 千夜は胸を押さえる。
「犯人の殺意と狂気が、私の中に流れ込んでくるような感覚でした」
「そうだ、やっぱりお前には素質がある」
「素質?」
「人を殺す――殺人鬼になる素質だ」
 車が赤信号で止まった。
 水上は千夜の方を向き、笑う。
「これからたくさんの事件に関わってって、どんどん殺意と狂気を吸収してけ。それで答えを出しゃあいい。殺すか、殺さねえか」
 
 マンションにつくと、水上は当然のように部屋までついてきた。
「この間無理矢理抱いたこと、怒ってるか?」
 そう言って、玄関だというのに千夜を後ろから抱き締めた。
「なかったことに、したいだけです。犬に噛まれたようなものだと思って」
 千夜の身体は小さく震えていた。
「なかったことになんて、しないでくれよ。俺はお前のことが好きで、抱いたんだぜ」
「よく知りもしないくせに、好きなんて」
「知ってる」
 水上は千夜の耳元で囁いた。
「生徒手帳を拾ってから色々調べた。お前がどんな人生を送ってきて、誰を殺したいと思ってるかも、知ってる」
 抱き締める力が強くなった。
「本当のことを言うと、最初は殺すつもりだった。現代の切り裂きジャックっつっても、目撃者は消すさ。でもな、お前のことを知っていくうちに殺す気なんて失せちまったよ。放っておけなくなったんだ」
「同情ですか?」
「愛情だ」
「うそ」
「嘘じゃねえ」
 水上は千夜を抱え上げた。
「な、何ですか!」
「ベッドでヤろう」
「いやっ! これ以上、私の体をおかしくしないでくださいっ。怖いんです。感じたら、何も考えられなくなって、自分が自分じゃなくなりそうで……」
「お前は考え過ぎなんだ。セックスしてる間は、何も考えられないぐらいで丁度いい」
 寝室のドアを蹴り開けると、水上はベッドに千夜を下ろす。
「やだ、もう……」
 枕を投げ付けたが、水上はそれを易々と受け止めた。
「どうせ、捨てるくせに。あの男みたいに……」
 千夜はブレザーの袖で乱暴に目元を擦る。
「何も期待したくない……。期待したって、裏切られるもん……」
 子供のように泣きじゃくり始める千夜に、水上は覆い被さった。
「期待なんてしなくていい。俺は勝手にお前を愛してる」
 大きな手が、制服の上から乳房を撫でる。
「ん、う……」
「今は考えなくていい。お前は今回、充分向き合ったよ。だから今は、快楽に身を任せろ」
 彼の愛撫は激しく、服越しでも千夜を昂ぶらせていった。
「うう、ん……」
「頑張ったな、千夜」
 豊かなバストが、大きな手の中で形を変える。
「は、は……」
 千夜は泣きながら呼吸を荒くしていった。
 ――やっぱり、男の人の触り方って違う……。
 ぐちゃぐちゃになった頭で、そんなことを考える。
「俺はお前を、愛してる」
 囁かれて、脳が痺れていった。
 そして股間が、じんじんと熱を持つ。
「あ、ふう……」
 千夜は甘くねだるような声を上げ、腰を揺らした。
「欲しいんだな?」
「んう……」
 恥ずかしそうに、千夜はこくりと頷く。
 水上は千夜のプリーツスカートをめくると、フリルの付いたパンティーを下ろした。
 片足に引っ掛かったそれは、もう秘部を隠す役目を果たしてはいない。
 水上は手袋を外し、床に投げ捨てた。
 そのごつごつとした指が、ちゅぷんと音を立てて割れ目に差し入れられる。
「あ……」
 千夜の体がピクンと跳ねた。
 くちゅくちゅと淫らな水音を立て、水上は千夜を快楽の世界に誘っていく。
「ああ、あっ!」
 千夜が喘いでいる間に、膣内を掻き回す指は二本、三本と増えていった。
「もう、いいだろ」
 水上はそう呟くと、千夜の足を肩に掛け硬くなっているペニスを秘唇に押し当てた。
「いくぞ」
 ぬぷんっと、男根が千夜を貫く。
「はううっ!」
 初めてのときのような痛みはなかった。ただ、稲妻のような快感が体を駆け抜けた。
「んっ! ひいいんっ!」
 水上はゆっくりと腰を動かし、優しく膣壁を擦り上げていく。
 ――とろけそう……。
 何故か、千夜は幸福感を覚えた。
 ――体が繋がってるだけなのに。
 ぼんやりと考えながら、千夜は水上に全てを委ねる。
 優しい動きが少しずつ激しくなっていき、膣内のペニスは硬度と質量を増していった。
 彼女は言われた通り快楽に身を任せ、思考を放棄することにした。
 膣をきゅうきゅうと締めながら淫らに微笑んで、ただ快楽を享受する。
 その目に水上が映っているかどうかも怪しい。
 だが、水上自身もそれは分かっていた。
「中に、出すぜ……っ!」
「はひ、せーえき、出してくだひゃいっ!」
 ずんっと子宮を押し潰すように強く突き、水上は果てた。
「あああっ! 熱いの、きてるっ!」
 千夜はぶるりと身を震わせ、ふにゃりと笑った。
「俺たちは長い付き合いになるぜ。だから……」
 水上はそんな千夜に口付ける。
「どうか心の片隅に、少しでいいから俺のことも留めておいてくれ」



エピローグ
 少し千夜の過去の話をしよう。
 彼女は父親を知らずに育った。
 子供の頃、母は千夜にこう言った。
 ――お父さんはね、お星様になったのよ。
 ああ、父は死んだのか、と子供心に思った。
 たまに遊びに来てくれる祖父や叔父はとても優しく、父の日に幼稚園や小学校で絵を描かなければならない時は彼の絵を描いた。
 ピアニストの母は厳しくも優しく、愛情を注いでくれた。
 金銭的な苦労もしなかった。決して不幸ではなかった。
 むしろ幸せだった。
 愛されて育った彼女は、父も同様に自分を愛してくれていたのだと信じ込んでいた。
 そう思えば、父の不在も些細なことに思えたのだ。
 だがそんな幸福は、母が事故で他界したことから崩れ始める。
 葬儀の後、祖父と叔父は千夜のマンションでこれからのことを話し合っていた。
 疲れとショックで一人早めに眠った千夜だが、ふと目が覚めた時、その会話を聞いた。
「あの男に知らせた方がいいんじゃないか?」
「もしあれが千夜に会いにきたらどうする」
「でも、父親なんだ、会いにくるべきだろ」
 父は、生きている。
 思えば気付くべきだったのかもしれない。父の名前も口には出さない母に、叔父に、祖父に、不信感を抱くべきだったのだ。
 今という時代はとても便利だ。千夜は戸籍謄本を取り寄せ、初めて知った父の名前をインターネットの検索ボックスに打ち込んだ。
 エンターキーを押して出てきたのは、大学のホームページだった。彼の名と写真は講師一覧の中にあった。
 どこにも故人という表現は見られない。ホームページは最新のものだ。
 ――やっぱり、生きてるんだ。
 千夜はすぐその大学へ向かった。幸いというべきか、電車で一時間ほどの所にある大学だったのだ。
 大学内で迷っていた千夜に声をかけてきたのは、偶然にも写真で見た父だった。
「あの、私……、千夜です。貴方の、娘の……」
「ああ、千夜か」
 父が自分の名前を呼んでくれた。
 それが嬉しかった。
 きっと何か理由があって共に暮らせなかったのだろう。父は自分を愛してくれている。そのはずだ。
 ――父親が娘を愛するのは、当たり前のことだ。
 愛されて育った少女は、そう信じて疑わなかった。
「私には家族がいるから、会いに来るな。迷惑だ」
「え?」
「もう、来るんじゃない」
 父はそれだけ言うと、去っていった。
 ――何で? 家族ってなに? 私は、家族だろ? 娘なんだから。
 何かの間違いだったのかもしれない。
 まだマンションに滞在していた祖父に、大学でのことを打ち明けた。
「それは人違いだったんだろう。お前の父親は別の人で、千夜のことを愛してくれているよ」
 そう言われるものだと、思っていた。
 だが、祖父は苦々しい表情を浮かべ全てを語る。
 父が母に暴力を振るっていたこと。
 母が千夜を連れて逃げたこと。
 その後、父が再婚したこと。
 祖父はもうあの男と関わらないように言った。
 千夜は頷いた。
 だが、一度ついた殺意の炎は消えることはなかった。
 ――娘を愛さない父親なんて、死ねばいい。
 その気持ちが、いつも心の中にあった。
 ――いや、私が、殺してやる。

「ん……」
 千夜が目を覚ますと、隣で水上が寝ていた。
「殺人鬼のくせに、無防備……」
 サングラスを外し、オールバックの髪も乱れている。
 スマートフォンのバイブ音を聞き、千夜はベッドに寝転んだままメールを確認する。
『大丈夫か? 学校来られそうか?』
 秋葉からだった。
「大丈夫、行くよっと」
 千夜が返信すると、すぐにまたメールが返ってくる。
『帰りにドーナツでも食いに行こうぜ。みんな暇だから』
 返ってきた言葉に、千夜はふふふと笑う。
「嘘つき」
 秋葉はバイトで忙しく、高石には部活がある。
「どうした? 千夜」
 ようやく目を覚ました水上に、千夜は微笑んだ。
「なんでもないです。そうだ、朝ご飯、作ってください」
「おー」
 水上は頭をガシガシと掻きながらキッチンへと向かう。
 この殺人鬼との出会いは、自分を大きく変える。
 人を殺したいのは否定しない。否定する気もない。
 それでも、答えを出すのはまだ先の話だ。
 いつかその日がくるまで、彼女は青春を謳歌する。
 たとえそれが、あまり明るくないものであっても。
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  1. 2016/06/22(水) 13:35:52|
  2. 没小説
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  4. | コメント:0
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