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第二話『カリスマアイドルの秘密』

 マーダーランド第二話です。アイドルネタはリメイクですが、周辺キャラなどをかなり変えました。
 最後に時雨が出てきます。


『カリスマアイドルの秘密』

 晴空大学の食堂では昼休みの今、学生たちが昼食をとっている。
 朝凪、昼本、夜崎もその中で三人揃ってカレーを食べていた。
「夜崎、お前現代文化論の単位取れそう?」
「まあ、いけっかな」
 その答えを聞き、昼本は溜め息をつく。
「マジかよ。俺、ヤベえんだけど」
「ヤバいって、お前ちゃんと講義出てたか? あれ、出席してたら単位取れるぜ?」
「あの講義って朝一だろ? いっつも寝坊しちまってさ」
「夜遊びも程々にしとけよ」
「おー」
 ここまで会話してから、二人は後輩の朝凪が一言も喋っていないことに気付いた。
 隣に座っていた昼本は「おーい、朝凪?」と声をかけるが、彼は備え付けのテレビに目をやったまま、
「ライムちゃん、やっぱ可愛いなあ」
 と、呟いている。
「ああ」
 昼元はテレビに視線を移して納得する。
「人気アイドル川野ライム、新曲発表か」
 ワイドショーの芸能コーナーでインタビューを受けているのは、ウェーブした黒髪をツインテールにした愛らしい少女だ。
「人気アイドルじゃなくて、大人気アイドルですよ」
 朝凪が珍しくキッパリと言い切るので、昼本は「お、おう……」と少々たじろいだ。
「そんなに歌、うまいのか?」
 大人気ということはそうなのだろうかと、夜崎は首を傾げる。
 新曲がバックに流れているが、どうもピンとこないのだ。
「いや、特別うまくはねえな」
「じゃあダンス?」
「それも普通」
「容姿か?」
「胸がちょっと小さいんだよな」
「何で流行ってんだ? 人並みじゃねえか」
「分かってないですね、昼本先輩も夜崎先輩も」
 朝凪はスプーンを皿に置くと、何故か立ち上がり、
「ライムちゃんにはオーラがあるんですよ。アイドルとしてのオーラが!」
 と、熱の篭った口調で言い放つ。
「オーラ、か」
「ま、カリスマ性ってやつだろ。よく分かんねえけど」
「キラキラ輝いてて、他のアイドルとは全然違うんです」
「何の話?」
 そんなとき、三人と同じテーブルに着いたのは紗々だった。
「あ、先生」
「と、首縄さん」
「どうも」
 紗々に続き、首縄も席に着く。
 二人は色違いの包を解き、弁当箱を開けた。中身はミートボールにプチトマト、おにぎりなど同じものだ。
「弁当、お揃いなんっすね」
 昼本が指摘すると、紗々は「ははは」と笑って頭を掻く。
「愛妻弁当を作りたがるからね、首縄君は。私は適当に買うって言ってるのに」
「一人分も二人分も大して変わりませんし、節約です」
「愛妻って」
 夜崎は苦笑するが、紗々は困ったように肩を竦めた。
「朝からエプロン姿でキッチンに立つ彼を見てるとさ、あれ、私結婚してたっけって勘違いしそうになるよ」
「え?」
 昼本が目を丸くする。
「先生と首縄さんって、同棲してるんっすか!」
「違いますよ。住み込みの家政夫のようなものです」
 首縄は表情を変えずに否定するものの、昼元の方は「うわあ、ヤベえ」と頭を抱えて話を聞いている様子はない。
「ところで、オーラがどうとか言ってなかった?」
 紗々は同棲云々などどうでもいいらしく、夜崎に尋ねる。
「ああ、なんか朝凪がファンのアイドルに凄いオーラがあるとかで」
「へえ……」
 紗々はまだライムを映しているテレビに目をやった。
「オーラねえ……」
「心理学的にはどうなんですか?」
 夜崎は気怠げに問いかけるが、やはりその瞳には探究心が伺える。
「そうだねえ……。オーラというとスピリチュアルな響きがあるから非科学的な感じがするけど、一種の共感覚と考えれば仮説は立てられる」
「共感覚って何っすか?」
「特殊な知覚現象の一つだよ。聞いたことないかな? 音を聞いたときに色を感じたり、形を見たときに味を感じたりって」
「あー、なんかドラマであったような」
「そういう意味で、相手の声が色という形でオーラに感じられるとかはあるかも」
「でも、それだと発信者じゃなくて受け手の問題になりますよね?」
「お、夜崎君鋭いね。そう、だからみんながオーラを感じるって言うならそう思わせるだけの魅力があるんじゃない? 誰かが言い始めた『オーラ』って比喩表現が広まっただけで」
「なるほどなー」
 昼本が「うーん」と腕を組んだとき、昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。
「おっと、次の講義何だっけ?」
「ギリシャ古典だよ、忘れんなって」
「そうだった。おーい、朝凪も三限あんだろ?」
「え、ああ、はい。――あれ?」
 ようやくテレビから目を離した朝凪は、紗々と首縄を見て首を傾げた。
「いつの間に来てたんですか、先生と首縄さん」

 一気に人の減った食堂で、講義のない紗々は弁当を食べ終わると「ごちそうさま」と手を合わせて背もたれに体を預けた。
「ねえ、首縄君」
「はい?」
「ここ数ヶ月、五件ぐらい感電死事件が起きてたじゃん。この晴空市で」
「はい。確か一件はホームレスが出頭していて、同一犯ではないと言われていましたが」
「いや、五件とも犯人は同じだよ」
「突然どうしたんです?」
 首縄は首を傾げる。
「犯人はあの子、さっき映ってた」
「川野ライムですか?」
「そう、彼女は殺人鬼だ」
 紗々はそう言うと、「ははは」と笑った。
「まあ根拠はないけどねー、勘だよ、勘」
「それでも、先生が言うならそうなんでしょう」
「とりあえず、人留君に頼もうか」
 スマートフォンを取り出すと、彼女は通話履歴から人留に電話をかけた。
「ああ、もしもし、人留君? 頼みたいことがあってね。最近有名なあの……」
 紗々が言葉に詰まったので、首縄は「川野ライムです」と耳打ちする。
「そうそう、川野ライム。あの子のこと調べてくれる? ――あれ、もう調べてる? へえ、既にそういう依頼が……。熱狂的なファン? 住所と行動パターンは割れてるんだ。じゃあもう少し調べといてよ。よろしく」
 通話を終わらせると、紗々は調子外れの鼻歌を歌った。
「いやあ、手っ取り早くて助かる」
「住所に行動パターンって、ファンというよりストーカーでは?」
 首縄は眉間に皺を寄せるが、紗々にとってはどうでもいいことらしい。
「ま、殺意がない限りそこは私たちの領分じゃない」
「そうですか」

 数日後、人留から連絡をもらうと、紗々と首縄は事務所を訪れた。
「これだ、ライムの資料」
 彼は用意してあった大判の封筒を紗々に渡した。
「ありがとう」
 紗々はデスクに腰をかけると、甘えるように人留の首に腕を回す。
「お前は……」
「お礼はするって、いつも言ってるのに……」
 大きな乳房が人留の顔に当たり、むにゅりと形を変えた。
「先生、いい加減にしてください」
 首縄は紗々の首根っこを掴み、人留から引き離した。
「はは、首縄君はお堅いね。そんなんじゃ彼女できないよ?」
「必要ありません。とっととこっちに資料渡してください」
「はいはい」
 紗々は苦笑しながら書類を取り出し、首縄にパスする。
 首縄は「まったく」と息をつき、書類に視線を移した。
「川野ライムは本名。住所は……、ああ、あの高級マンションですか。五人殺害済み。マネージャーである塚本啓二の偽装工作により、一件はホームレスの犯行とされている。――人留さん、どうしたらここまで調べられるんですか?」
「まあ、ツテだな……」
 人留は眉間に皺を寄せ、腕を組む。
「警察にバレたら人留君もヤバいような関係者でしょ。だから今回は、警察に引き渡せないな」
 紗々は肩を竦めるが、特に困ったという様子はない。
「しかし、それでは法の下に裁くことができないのでは……」
「裁かれなくても、罰は受けることになるよ。多分、彼女にとっては捕まるよりつらい結果になる」
「はあ……」
「じゃあ、このまま彼女のマンションに行こうか。新たな犠牲者が出る前にね」

 マンションから中年の男と、少女が姿を現した。
 幾分地味な格好はしているが、纏う雰囲気とでもいうものが普通の人間とは違う。
「カリスマ性ってやつかね」
 そう言うと、紗々は首縄と共に二人の前に立ち塞がった。
「なあに、マスコミ? ねえ塚本、マスコミにはガセのネタ掴ませたって言ってたじゃない」
 テレビで聞いたのと同じ、愛らしい声が不機嫌そうに響く。
「君たちは?」
 塚本が眼鏡の奥から細い目で紗々と首縄を見つめる。
「匿名希望の正義の味方? で、今日は誰を殺しに行くのかな」
 冗談めかした紗々の言葉を聞いた塚本は、眉間に皺を寄せた。
「どこで得た情報だ?」
「さあ、どこだろうね。心当たりは?」
「話すなら場所を変えないか? ここだと人目に付く」
「人目に付くとまずいのはこっちも同じだ。どこにする?」
「ねえ、あたし屋上に行きたーい。いつもあそこで殺してるもの」
 塚本は溜め息をついた。
「後始末する私の身にもなってくれ。また二人分の偽装をしないといけない」
「屋上ですか、エレベーターの中で一撃ということにはなりませんか」
 首縄はライムを見据えたが、彼女は「やあね」と笑う。
「大丈夫よ、あたしは屋上でしか殺さないわ。あそこって見晴らしが良いし、監視カメラにも細工してるから安心なのよ」
「よく喋るね」
「だって、あなたたちはどうせ死体になるじゃない。あたし、黙ってるのは嫌いなの」
「そう」
 紗々は苦笑し、相手の要求を呑むことにした。
 警戒しつつ四人でエレベーターに乗り込んだが、さすがは高級マンションと言うべきか、何事もなく一分もかからずに屋上へと着いた。
「気に入った男がいたらいつもここに連れてくるのよ」
 ライムはエレベーターを出ると、気持ち良さそうに外の風を受ける。
「塚本は手を出さないでよ。この人、気に入っちゃったから」
「ああ、終わるまで見ておく」
「随分余裕ですね」
 首縄はライムと対峙し、ワイシャツのボタンを外すと左胸の痣から刀を引き抜いた。
「特殊効果? ま、ドラマでもそういうのは見たことあるわ」
 驚かないのは芸能界で様々な経験をしてきたからか。
「大体そういうのってトリックでしょ。そんなことで怯むと思った? あたし、これでも結構強いのよ?」
 ライムは魅力的な笑みを浮かべ、首縄を見つめる。
「ここってステージの上と似てるの。夜景がファンの持ってるライトみたいで。まあ、あなたたちには分からないでしょうけど」
 その足がとんっと地面を蹴る。
 いつの間にかスタンガンを手にしていたライムは、首縄に飛び掛かった。
 彼はそれをなんとか横に避ける。
「速い……」
 首縄は表情こそ変えないものの、ライムの強さを認める。
 彼女が手にしているスタンガンは改造され、一撃で即死するレベルとなっている。
 ――一撃でもくらったら、まずい……。
 ライムの素早さなら、それを可能にするだろう。
 紗々は少し離れたところで、塚本と共にその戦いを見ていた。
「まるで、楽しんでるようだね」
「そうだ、あの子にとっては刺激が全てだからな」
 塚本は眼鏡を直し、頷く。
「刺激があるから輝くんだ、ライムは」
 首縄はいつの間にか防戦一方に回っていた。
 フェンシングのように突き出されるスタンガンを避けていたが、給水塔に逃げ場を塞がれる。
「そろそろ死んでね!」
 突き出された凶器。
「貴女の動きは、もう見切りました」
 それが体に当たるギリギリのところで、首縄がライムの腕を掴んだ。
「確かに速いですが、力では俺の勝ちです。見せてもらいますよ、貴女の殺意の源を」
 首縄の刃が、ライムの胸を貫いた。

 ライムは平凡な少女だった。
 特技と言えるほどのものはなく、いつも人ごみに紛れていた。
 それでも夢はあった。アイドルになるという夢が。
 しかし現実は残酷で、オーディションの不採用通知が溜まっていった。
 男に襲われたその日も、オーディションに向かおうとしていた。
 叢に連れ込まれた彼女は、スタンガンで男を撃退した。
 変質者が出ると聞き、護身用に買った普通のスタンガン。
 その電圧で、男は死んだ。
 おそらく持病があったのだろう。心臓麻痺だった。
 ライムはそんな男を放置し、オーディションに向かった。遅れるわけにはいかなかったのだ。
 何故か気分が高揚し、自信があった。
 そしてその日、彼女は初めてオーディションに合格した。
 ライムは気付いた。あの時感じた刺激が自分を輝かせたのだと。
 人を殺めた時に感じた恐怖、優越感、興奮……、そんな全ての感覚が刺激となる。
 デビューしてしばらくの間、鳴かず飛ばずの生活を送っていた彼女はマネージャーの塚本にそのことを打ち明けた。
「じゃあ、殺そう」
 塚本はそう言った。
「殺すなら気に入った男にしようか、その方がもっと刺激があるはずだ」
 その言葉にライムは安堵した。
 きっとこれでまた、輝ける。
 ライムは街で見かけて気に入った男を連れ込んでは、改造スタンガンを使って殺した。
 案の定、ライムの人気は上がった。
 もっと刺激が欲しい。
 次は屋上で夜景を見ながら殺した。
 その時の高揚感は言い知れぬものだった。
 そうやって、彼女は今の地位に登りつめたのだ。

「え、あれ?」
 ライムは胸押さえたが、痛みはなく血も出ていない。
「もう貴方は、人を殺せません」
 首縄は刀を自らの左胸に突き立てる。
「ああ、あのオーディションが無ければ、貴方は殺人鬼になることはなかった」
「何で、そんなことまで……」
「ライム!」
「あたし、怖いの……。殺すことが……」
 駆け寄った塚本に、ライムは怯えたような表情で縋り付いた。
「お疲れ」
 紗々は戻ってきた首縄の肩をポンポンと叩く。
「それで、彼女が受ける罰とはどういうものなのですか?」
「そのうち分かるさ」
 そして頭を掻くと、エレベーターに乗り込んだ。

 一ヶ月ほどが経っただろうか。
「最近さ、川野ライムってテレビに出てなくね?」
 昼休みの食堂で、カレーを食べながら昼本が首を傾げる。
「あー、だからか。朝凪が元気ねえの」
 夜崎は無言でカレーを口に運ぶ後輩に目をやる。
「ん、なんかオーラがなくなったー、とか週刊誌に書いてたけど」
「よく分からねえけど、結局飽きられたんだろ」
「夜崎、辛辣過ぎだろ」
 昼本は苦笑し、朝凪の肩を叩いた。
「ほら、テレビ見ろテレビ。最近デビューした子、すげえ可愛いぜ!」
「はい……」
 そんな三人の後ろを通り過ぎながら、首縄は思う。
 ――ああ、これが先生の言っていた、罰なんですね……。

「おう、藍澤先生」
 同時刻、晴空総合病院に勤務する医師、笹原裕二は食堂で同僚の女医である藍澤時雨に声をかけた。
「ああ、笹原先生。またカレーうどんですか」
「そっちこそ、いっつも天ぷら蕎麦な」
 長い黒髪を耳にかけ、蕎麦を啜る中性的な美女は隣に座る笹原と肩を竦め合う。
 笹原はワイドショーを流しているテレビに目をやると、
「そういや、川野ライムって全然見なくなったな。一時期、すげえ人気あったじゃん?」
 と、言いながら顎を撫でた。
「オーラがなくなったそうですね」
「あー、なるほどなー」
「しかし、どこに消えたのでしょうね、輝きを失ったアイドルは」
 時雨の薄い唇が、三日月のように弧を描く。
「はは、なんか藍澤先生が『消えた』とか言うとこえーよ」
「失礼ですね。私は善良な一般市民ですよ?」
 彼女は白衣のポケットに入れた左手でメスを静かに弄んだ。
 落ちたアイドルとそのマネージャー。彼女たちの行方を気にする者など、いない。
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テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2016/04/30(土) 18:53:15|
  2. 没小説
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