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第一話『金属バットの殺人鬼』

 ずっと書いては没にしてきた殺人鬼と戦うサスペンスアクションなんですが、こういう形にしてみました。
 殺人鬼自体は使い回しですが、設定はかなり変えたつもりです。
 紗々&首縄のバディモノに近い感じになったかと。勿論人留も健在です!


『金属バットの殺人鬼』

「殺人鬼ってのは、人間を超えた鬼だ」
 晴空大学で『殺人鬼とは』というゼミを担当する講師、絆紗々は五人の学生を見回した。
「今日はペドロ・アロンソ・ロペスの話をしよう。『アンデスの怪物』と恐れられた南米の殺人鬼だ。八歳で妹に性的虐待をし、18歳の時に窃盗で投獄され、獄中で三人の囚人を刺殺した」
 ショートカットの黒髪に凛々しい顔立ち、大きなバストに肉付きの良い尻。そんな恵まれた体をワイシャツと緩めたネクタイ、ジーパンに包んでいる三十路の心理学者の口からは残虐な事件の概要が淀みなく語られる。
「出所後、彼はコロンビア、エクアドル、ペルーを移動して思春期前のインディオの少女を人気のない場所に誘い出しては強姦し、絞殺した。その数は三百人とも言われてる」
「人間のやることじゃないわ」
 長西桜子が愛らしい顔をしかめ、身を震わせると茶色のふわりとした髪が揺れた。
「つか、やべえっすね。やることえげつねえ」
 茶髪のどこか軽そうな男子学生、昼本透は足りない語彙力を精一杯使い、恐怖心を表す。
「そう、ヤバいんだよ、彼らは」
 紗々はプリントをとんとんと叩き、笑う。
「でも先生、やっぱり人間がそこまで残酷なことをするには、理由があるんですよね?」
 桜子の隣に座っていた水野美咲はしっかりとした声で問いかける。黒髪を短くした彼女は桜子とは対照的にボーイッシュな雰囲気だが、無二の親友である。
「そう、彼は男にレイプされたんだ。実際に『だからできるだけ多くの少女に同じことをしてやろうと誓った』と述懐している。窃盗で捕まる前にも孤児院で性的虐待を受け、最初に殺した囚人からもレイプをされていた」
「つまり周りの人間が彼を追い詰めなかったら、こんな事件を起こすことはなかったってわけですか?」
 黒い前髪で瞳を隠すのは桜子と美咲と同学年の朝凪貴志。その問いに、紗々は頷く。
「うん、殺意が生まれる環境はとても重要だ。私はね、生まれながらの殺人鬼なんてものはいないと思ってる」
「でも、環境が揃っていても実行しないやつだっているんっすよね」
 整った顔立ちの青年は男にしては長い黒髪を指に絡めた。昼本の親友である夜崎渡の態度は気怠げに見えるが、その目からはこのゼミに対する強い興味が伺えた。
「勿論。そこで踏み越えてしまうか留まるか、そこは大きな違いだ」
「えっと、普通のっていうのもおかしいか。とりあえず、殺人犯と殺人鬼って何が違うんっすか?」
 昼本は腕を組み、首を傾げた。
「そこね。殺人犯は同期に基づいて特定の個人を殺す。そこで殺意は消えるんだ。目的を達成したところで殺人をやめられるのが殺人犯」
「じゃあ、殺人鬼は?」
 桜子はどこか幼い口調で尋ねる。
「殺人鬼は最初の目的を達成しても人を殺すことをやめない。殺意は消えず、終わることのない殺人行為を繰り返す。――人間をやめた、正に鬼だよ」
「つまり、殺意を持たなかったり、持っていても実行に移さないのが普通の人間。殺意を持って実行に移しても、目的さえ達成すれば殺しをやめるのが殺人犯。殺意を抱き続け、目的もなく殺し続けるのが殺人鬼、ということですか?」
 朝凪の言葉に紗々は「花丸だ」と、人差し指で空に丸を描いた。
「認識としてはそれで正解。勿論例外はあるし、ケースバイケースだけどね」
 そこでドンドンと荒々しいノックの音が響く。
「おい絆! お呼びがかかってんぞ!」
 不躾にズカズカと入り込んできたのは、紗々と年はそう変わらないであろう男。黒髪は七三に分け、スーツと眉間に皺が寄っている。
「失礼します。ゼミの最中に申し訳ありません」
 その後ろで穏やかな笑みを浮かべた長身の男は二十代後半だろう。こちらは黒髪をオールバックにし、スーツには皺一つない。
「ああ、そうか」
 紗々は二人に目をやると、ふう、と息をついた。
「悪いけど今日はここまでだね。急用が入った」
 資料をまとめ、彼女は学生たち五人の顔を見回す。
「質問があればいつでも研究室においで。お茶とお菓子を用意して待ってる」
 冗談めかした声でそう言うと、紗々は教室を後にした。
「相変わらず人の都合ってものを考えないねえ、刑事ってやつは」
「うるせえ。俺だって好きでお前を呼びに来たんじゃねえんだよ」
 悪態をつく彼、皇城統と穏やかな笑みを崩さず、
「絆先生のお力を借りろと、上からの命令があったので」
 と、流れるように話す咲田優。この二人は殺人事件を追う刑事である。
「そっか、じゃあまた殺人鬼?」
「そう見てる。被害者に繋がりのない連続殺人だ」
「この一ヶ月、市内で四人が殺されています。被害者は皆撲殺されており、傷口に残された塗料から凶器は金属バットかと」
「ああ、あの事件ね。やっぱり同一犯だったか」
「そうだよ、――で、どこに向かってんだ、お前」
 前をスタスタと歩いていく紗々に問いかける皇城。
「図書室。助手を拾っていかないとね」

 彼らがいた授業棟から少し離れた図書室。二階建てのそこはDVDの視聴も可能である。
「待ってて」
 紗々はゲートに職員証を翳した。
 ピッと音がするとゲートが開き、彼女は足早に中へと入っていく。
 書架の間を通り過ぎて行き、『心理学』のプレートが貼られた本棚を覗き込むと、彼はいた。
「首縄君」
 他の利用者の迷惑にならぬよう、紗々は小声で助手の名を呼んだ。
「ああ、先生」
 こちらを向いたのは、黒髪に眼鏡、青いワイシャツにジーパンという地味な印象の青年、首縄尋夫だ。
 彼は紗々に歩み寄ると、数冊の本を差し出す。
「先生が言ってた本です。資料用にと」
「ああ、ありがとう。手続きを済ませたら出よう。皇城君たちが待ってる」
「仕事、ですか」
 首縄は眼鏡を直すと息をついた。
「忙しいですね」
「世に犯罪の種は尽きまじ、だよ」
 紗々は軽く笑って貸出の手続きをし、図書室を出る。
「待ちくたびれたぜ」
 二人の姿を目に留めた皇城は、煙草を携帯灰皿に捨てて紫煙を吐き出した。
 首縄は露骨に顔を顰める。
「学内は基本禁煙ですが」
「そりゃあ悪かったな」
「中庭に喫煙スペースがある。どうせ話すならそこにしよう」
 紗々は肩を竦めて歩き出す。首縄もそれに続いた。
「先輩」
「何だ?」
 咲田は微笑み、皇城の胸ポケットから煙草を没収した。
「禁煙したはずでは?」

 中庭では本日の講義を終えた学生たちが思い思いの遊びに興じている。ギターを弾く者、ベンチで噂話に花を咲かせる者、キャッチボールをしている者、と。
 紗々たちは食堂に続くテラス席に腰を下ろした。
「で、私のところに来たからには容疑者ぐらい上がってるんだろうね」
 紗々は長い脚を組み、くすっと笑った。
「当たり前だ。警察舐めんな」
 渋い顔をして、皇城が手帳に挟んでいた四枚の写真をテーブルに並べるどれも防犯カメラの一瞬を切り取った不鮮明なものだ。
 サラリーマン風の若い男、酔っ払っているのか赤い顔をした中年男、パーカー姿の少年、派手な化粧を施した若い女。
 紗々の指が三枚目、少年の写真を差す。
「彼だ」
「こいつか」
「うん」
「根拠は?」
 その言葉に、紗々は人差し指をくるりと回す。
「勘?」
「だー……」
 ガクリと脱力する皇城の肩を咲田が軽く叩いた。
「でも、絆さんの勘が外れたことはありませんから」
「そうだけどよ、勘なんてもんじゃなきゃ、俺たちで公的な捜査ができるんだぜ」
「そりゃね、部外者の勘が根拠じゃ、捜査本部は動かせないか」
 紗々は他人事のように笑うと、少年の写真を手に取った。
「ま、あとは探偵にでも任せれば? 君らは別の事件の解決に勤しめばいい」
 『探偵』という言葉を聞くと、皇城のただでさえ不機嫌そうな顔が更に酷いものになる。
「お前がどういう手を使って上に取り入ってんのかは知らねえが、俺は一般人が捜査に関わってくんのを認めちゃいねえからな!」
 テーブルを拳で叩くと、彼は残った写真をポケットにねじ込み、ドスドスと足音を立てて歩き出した。
「すみません、頑固な先輩で」
 咲田は立ち上がり、困ったように笑う。
「いいよ、面白いから」
 紗々はへらへらと笑い、手を振った。
「では、失礼します。あとはお任せしますので」
 咲田はぺこりと頭を下げると、先輩刑事の後を追う。
「先生」
 それを見送りながら、黙っていた首縄が口を開いた。
「ん、何?」
「相変わらず、一瞬で分かるんですね。誰が『殺人鬼』か」
「まあねー」
 紗々は笑い、写真をピンと弾いた。
「同じ穴の狢、共感、共鳴、類は友を呼ぶ、そんなところだよ」

 数日後、絆紗々というプレートのかかった研究室のドアを叩くものが二人。
「はーい、どうぞ」
「失礼しまーす」
 ドアを開けたのは美咲だ。桜子はその袖を掴み、きゅっと唇を引き結んでいる。
「やあ、どうしたの?」
 積み上げられた専門書、雑誌、小説、漫画。今にも崩れそうな本の摩天楼の中、紗々は振り返る。
「えっと、ほら、桜子でしょ、用事あんの」
 美咲は桜子の肩を掴むとずいっと前にやる。
「あ、うん! せ、先生」
 桜子は落ち着くために息をつく。
「その、お茶と、お菓子を貰いに来たの!」
「ほう」
 紗々はくすくすと笑う。
「首縄君、コーヒーと棚に入ってるチョコレート、よろしく」
「分かりました」
 本の山に隠れていた首縄が、奥にある炊事スペースに立つ。
「もー、桜子ってば。相談があるから来たんでしょ?」
 美咲は溜息をつき、桜子の背中を叩いた。
「相談、ね」
 紗々は唇を人差し指でなぞり、「とりあえず座って」とパイプ椅子を勧めた。
「あ、ありがとうございます」
 二人が机を挟んで紗々の向かい側に座ると、首縄がコーヒーとバスケットに入ったチョコレートを置き、再び本の山の向こうに姿を消す。
「あの、先生って刑事さんの知り合いがいるんだよね?」
 桜子はコーヒーを一口飲むと、腹を括ったという様子で問いかけた。
「まあ、いるね」
「やっぱり、この間の二人刑事さんだったんだ」
「桜子、何で分かったの?」
 美咲は親友の顔をまじまじと見つめる。
「えっと、何となく、かな」
「何よ、それ」
「ほんとに何となくなんだもん」
「それで」
 紗々は桜子を真っ直ぐに見つめた。
「相談っていうのは何かな?」
「その、あたし……」
 彼女が話しかけたとき、紗々のポケットでスマートフォンが震えた。
「ちょっとごめん」
 紗々は左手で会話を制し、通話を始める。
「もしもし、ああ、うん、へえ。――分かった、これから行く」
 短い会話で切り上げると、紗々は立ち上がった。
「ごめん、急用が入った」
「あ、そうなんだ……」
 しゅんと項垂れた桜子の頭を軽く撫でると、紗々は耳元で囁く。
「君のご両親の事件なら、知ってる」
「え?」
 桜子の大きな瞳が溢れそうなほど見開かれた。
「桜子?」
「また今度、ゆっくり話そう。――首縄君、準備」
 慌ただしくなった研究室を、桜子と美咲は後にする。
「はー、ちょっと緊張しちゃったよ、あたし。絆先生って面白いけど変わり者だし。――おーい、桜子?」
「あ、う、うん。そうだね」
「また改めて、相談しにこよっか」
「うん、そうする」
 桜子は微笑み、美咲の手を取った。
「ケーキでも食べに行こっか」
「いいね、行こう行こう」

 晴空市内でもまだ開発が進んでいない地区、どこか昭和のような雰囲気を残すそこには、雀荘や駄菓子屋などの看板が並んでいる。
 『人留探偵事務所』という文字が窓に並ぶ二階建ての小さなビル。紗々と首縄はその階段を上がっていった。
 同じ文字が書かれたドアを、紗々が開ける。
「やあ、人留君」
「ああ、来たか」
 窓を背にしてデスクに座っているのは、茶色の髪をオールバックにし、無精髭を生やした熊のような大男だ。
 人留献也は抽斗から大判の茶封筒を取り出す。
「調べておいた」
「ありがとう」
 紗々はその封筒を受け取ると、
「支払いは?」
 と、人留の首筋を撫でる。
「いらん」
 頬を赤くしながらその手を掴む人留。
「いつも悪いね」
「俺が好きでやってることだ」
「好きなのは調査? それとも……」
 からかうような紗々の言葉を首縄の咳払いが遮る。
「先生、早く資料を」
 冷たい視線が彼女を射抜くが、紗々はどこ吹く風といった様子で肩を竦めた。
「ま、早いに越したことはないか」
 そして笑いながら封筒から書類と写真を取り出し、デスクに並べる。
 写真に写っているのは先日の少年だ。監視カメラのように不鮮明ではなく、はっきりと顔の分かるものである。――もっとも、隠し撮りではあろうが。
 グレーのパーカー姿の少年は、笑っている。その笑みが何に対してのものなのかは分からない。
「名前は関谷実、18歳。ここらのネットカフェを行き来してる、まあネカフェ難民ってやつだな」
「ふうん。今日行きそうなネカフェ分かる?」
「ああ、三丁目の……」
 告げられた住所はここから近い。
「今日、決行するのか?」
「善は急げ」
「首縄は……」
「俺は、先生の指示に従うだけです」
 首縄は軽く左胸を押さえ、答える。
「さあ、ここからは首縄君の出番だ」

 薄暗い街、ネットカフェの入ったビルから出てきた関谷の前に現れたのは紗々と首縄。
「ん? 誰、あんたら」
 関谷は肩にかけたスポーツバッグを押さえながら首を傾げる。
「ちょっと付き合ってもらえるかな?」
 紗々が微笑むと、関谷は「まあいいや」と笑った。
 人目に付かない路地に移動するや否や、彼はスポーツバッグから金属バットを取り出す。
「悪いけど、死んでもらうよ」
 その口がニヤリと弧を描いた。
「首縄君」
「はい」
 首縄はシャツのボタンを二つほど外す。
 左胸、鎖骨の下辺りにある痣に触れる右手。
 痣から柄が現れ、首縄はそれを無表情で引き抜く。
 一仭の刀が、月の光を反射してギラリと光った。
「何それ、手品?」
 関谷は首を傾げたが、すぐ首を横に振る。
「まあ、殺せば種も分かるかな」
 一気に首縄との距離を詰め、金属バットを振りかぶる。
 首縄はそれを刀身で弾いた。
「へえ、刀は本物っぽいね」
 関谷の動きは速かった。
 更に横に振り切ったバットの先端が首縄の頬をかすめる。
 殺人鬼というものは、皆押し並べて強い。
 それは人ではなく、鬼の強さである。
 殺意に憑かれて人であることをやめた、鬼の。
 だが、首縄はそんな鬼たちと戦ってきた。
 何十人、何百人と、生まれたときからこの忌まわしい刀と共に、戦ってきたのだ。
「君も有象無象と変わらない」
 首縄の刀が、関谷のバットを弾き飛ばした。
「ちっ!」
「その殺意、もらいますよ」
 鋭い刃が関谷の胸を貫いた。

 関谷は気の弱い子だった。
 だからだろう、よくいじめられた。
 小学生の時には靴を隠され、中学生の時には弁当に虫を入れられ、高校生の時には暴力を振るわれた。
 強者が弱者を痛め付ける。それは水が高所から低所に流れるように当たり前のことだった。
 ――自分がもし、強ければ……。
 そんなことを考えながらも、関谷は弱者という立場から抜け出せずにいた。
 その日も、クラスメートから殴られ、蹴られていた。
 逃げ込んだ体育倉庫にあった金属バットが目に入る。
 体育倉庫の扉がこじ開けられようとした時、関谷は思った。
 ――今なら、抜け出せる。
 彼は入ってきたクラスメートの頭に金属バットを振り下ろした。
 血飛沫を浴び、悲鳴を聞き、関谷は弱者の特権に酔いしれた。
 他人を傷付けるという、強者の特権に。

「今、何を……」
 関谷の胸に傷はない。一滴の血も、流れてはいない。
 首縄はその問いに答えることなく、まるで自分の体が鞘であるかのように、胸へと刀を戻す。
「君の殺意は、体育倉庫から始まったんですね」
「何で、それ……」
「見せてもらいましたから」
「ふざけるな!」
 関谷はバットを拾い、首縄に襲いかかった。
 しかしその手は止まり、バットを取り落とす。
 関谷の心が、殺すことを拒否したのだ。
「何でだよ、何で……」
「君はもう人を殺せない。殺意がないからね」
 紗々は微笑みながらそう言い、首縄の肩に手を置いた。
「さあ、帰ろう」

 首縄には不思議な力がある。
 殺意を斬る刀が、その体に宿っている。
 そして刀を体に収めることで、斬った殺意を見ることができる。
 何故こんな力があるのか、何故その力が自分を選んだのか、首縄には分からない。
「先生」
「ん?」
「この力がなければ、あんたは俺を助手にはしなかったんでしょうね」
「そうだね」
 表情もなくこちらを見る首縄に、紗々は笑う。
「それなら、この力にも意味はある……」
「はは、どうしたのさ、急に」
「いえ、ふと思っただけです」
 月の光で伸びる二人の影は、支え合っているように見えた。

「通り魔、捕まったみたいね」
 昼休み、食堂でテレビを見ていた美咲が隣に座る桜子に言う。
「そうみたいだね。これで夜道も安心だよ」
「ま、あんたはあたしが守ってやるからいつでも安心してな」
「さすが美咲、高校の時は空手部だったんだっけ」
「五段よ」
「なら返り討ち確実だ」
 きゃっきゃっと若い笑い声が響く。
「こういうのが殺人鬼ってやつなのかな、絆先生の言う」
「うん、そうだね」
 後ろから言葉に二人は「わっ!」と声を上げて振り向いた。
「先生! びっくりしたー」
「ごめんごめん」
 背後に立っていた紗々はくすくすと笑った。
「今日は暇だし、この間言ってた相談、乗ろうか?」
「あ……」
 桜子は少し考えたあと、首を横に振った。
「今日は、美咲とカラオケに行くの」
「そっか」
「うん、ごめんなさい」
「いや。じゃあまた、ゼミで」
 食堂を後にしようとした紗々の手を、入ってきた首縄が後ろから掴む。
「うん? ひょっとして怒ってる?」
「はい」
 首縄は無表情だが、眉間に皺が寄っているのが何とか分かる。
「どうした?」
「あんたがいつまでも片付けないせいで、研究室が大惨事です」
「被害レベル」
「本の摩天楼が倒壊、床が見えません」
「マジか……」
「先生、片付け頑張ってね」
 桜子の声援を背中に受け、紗々はとぼとぼと歩き出した。
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テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2016/03/28(月) 21:17:49|
  2. 没小説
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