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プロローグ

 高校生紗々主人公のミステリー小説『深淵もまた』のプロローグです。
 これは某賞に応募する予定なので、キャラ紹介などのつもりでプロローグと第一章のみ公開させていただきます。
 そして、賞の応募規約があるため、投稿する時に削除させていただきます。
 番外編やエロは削除しないので、そちらに出てくるキャラの日常などが気になる方はご覧ください。


プロローグ

 絆紗々は見た。

 いつもと同じ塾の帰り道は暗く、車道を走る車の数も少ない。

 時間は九時半を過ぎている。だが、高校三年生の紗々にとって塾の帰りはいつもそんなもので、特に恐れることはなかった。

 だが、聞こえたのだ。

 それは女の悲鳴のようだった。

 歩道から逸れた雑木林を見つめると、隙間から微かに見えたのは倒れている少女。

「どうしたのかな」

 目を凝らすと、急病などで倒れているわけではないことが分かった。

 少女の喉からドクドクと液体が流れ出ていた。暗いといっても街灯はある、ドス黒く見えるそれは血だ。

 ごくりと唾を飲み込み、後退る紗々。

 その時、丁度車道を通った車のライトが辺りを照らした。

 紗々は見た。白いジャケット姿の、銀色の長髪を乱した男を。黒い革手袋に包まれた手に握られたナイフが、更に少女の喉を切り裂く。

 そして男は――殺人鬼はこちらを見た。

 眼鏡越しの鋭い瞳が、紗々を射抜く。

「あ……」

 紗々は鞄を抱き締め、走り出した。

 息が切れても、足が痛んでも走った。自らが住むマンションまで。

 海辺に佇む二十階建てのマンション、ブルーパレスに駆け込み、自室の暗証番号を震える指で押していく。

 自動ドアが開くや否や中に入り、丁度降りてきたエレベーターに乗り込んだ。

 十階のボタンを押し、早く閉まれとエレベーターの閉ボタンを強く押す。

 エレベーターの動きが、いつもより遅く感じた。

 もし、もしもだ。エレベーターの扉が開いた時、目の前に殺人鬼が立っていたら?

「そんなわけ、ないか」

 ホラー映画のワンシーンのような想像を振り払う。

 扉が開くと、目に映ったのは長く伸びる廊下だけ。紗々はそれを駆け抜け、1007号室の鍵を何度も落としそうになりながら開けた。

 玄関の電気をつけると少し気持ちが落ち着いた。

 リビングの電気もつけて、ソファに身を沈める。

「はー……」

 普段あまり走ることがないせいか、心臓が破裂しそうだ。

 震える手でカバンからスマートフォンを取り出す。

「警察……」

 呟いてから、紗々はスマートフォンを床に落とした。

 ――見てみたい。

 湧き上がる感情は、不可解なものだった。

 ――あの殺人鬼の行く末を、見てみたい。

 思い出すのは、こちらを見た殺人鬼の瞳。

 人間のものではないような不気味さを湛えた、漆黒の瞳。

 あの目は笑っていた。紗々に見られても、尚。

「こんな形で捕まるなんて勿体無い」

 紗々はそう呟くと、息をついた。

「ああ、羨ましいなあ」

 そして、掠れた声で独白する。

「私も……、したい」

 もう一度、今度ははっきりとした声で。

「私も、殺したい」
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テーマ:ミステリ - ジャンル:小説・文学

  1. 2015/01/07(水) 20:02:39|
  2. 没小説
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